WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2008年7月の課題図書 >『絞首人の手伝い』 ヘイク・タルボット(著)
評価:
現代のミステリ小説&映画は、携帯履歴、監視カメラ、DNA鑑定などなど、科学技術の発達にリンクしなくてはいけないから大変だ。たいていは科学的検証をもとに犯人の特定が行われるから、書き手は取材力、知識を試されるワケだし。
半世紀前に描かれたこの本格ミステリは、呪いの言葉をかけられた男が衆人の前で絶命、しかも数時間後、デロデロに腐乱するてなアンビリーバボーな設定。むろん、今の技術をもってして事件が解明されるのではないからギャップは感じるが、それが却ってイイ味出してる。今読んでも古くさい感じがしないのだ。前言と矛盾するけど、ミステリの不易性なのかと。
登場人物が多いし、狂言回しが誰だか分からなくなって、途中までは我慢の読書だったが、後半の展開は「ホオオオオ」ってなる。でも犯人やトリックの解明よりも、アメリカンの小粋な会話の方が魅力的だったと感じたのは自分だけだろうか。
評価:
嵐の孤島で起こる不可能犯罪。呪いをかけられて死んだ翌日すでにその遺体は腐乱し、その謎を追う探偵役の賭博師は完全な密室の中で海からやってきたと思しき怪物に襲われる!幾重にも絡んだ謎は一体どのように解決されるのかがやはり見もの。その謎の解明に至るまでの探偵と容疑者、賭博師であるがゆえに疑いの目を探偵に向ける警察とのやり取りに興奮し、最後に探偵が仕掛けるきわどい罠に「えっー!」と賛否入り混じる声を上げることでしょう。
そうした謎の数々をさらに深くしていくのは本書全体に漂うオカルトな雰囲気。一族の呪いや水の精霊、オカルチックな書物や手紙の数々。横溝正史ばりの舞台設定が用意され、否応なしに登場人物たちを引っ張り、老婆が「タ・タ・リじゃー」と言ったり言わなかったり。それより早く解決しろよ、と思うのはきっと私だけではないでしょう。
評価:
正直、きつかった。今月の課題図書の中で、読みきるのにもっとも時間がかかった。
言葉遣いが難しいわけではない。親切な注が付いているので、意味のわからない言葉があるわけでもない。でも中々小説世界に入り込めなかった。登場人物が多めの小説において、人物名・地名が全てカタカナだと展開が頭に入りにくくなるのは、私だけではあるまい。
嵐が荒れ狂う中、クラーケンという名の孤島で起こった怪事件。口論の末の一言「汝、オッドの呪いによりて朽ちはてよ」という呪いの言葉により、人が絶命、しかも死後数時間も経たないうちに死体が腐乱してしまう。一体、何故?
60年以上前に書かれた作品。そのせいかミステリの源流という印象。嵐の孤島だし。トリックは面白かったし、探偵も良かった。決してつまらなかったわけではない。ただ、読書にかけた労力を考えると、これを読むなら国内ミステリで良いかな、と思ってしまった。
はあ。それにしても、自分が苦手だと自覚しているタイプの小説をすらすら読むためにはどうしたら良いのだろう。苦手意識を持たない、というのが一番良いのはわかっているんだけど。
評価:
古式ゆかしいミステリーを読んだという手応えの得られる一冊(本書は1942年に刊行された)。一族に伝わる呪い、衆人環視の中での殺人、魅力的な探偵役(自分の好みでなかったが)、帯の「絶対不可能犯罪!」のコピー、極めつけはポケミスという体裁!それでいて“絶海の孤島”ものにはならないところも鷹揚な趣向でグッドだ。タイトルの「絞首人の手伝い」という言葉も謎のひとつ。個人的にはあんまりオカルトっぽいものや気味の悪いものは苦手なのだが、最終的にはきちんと説明がつけられるのでよし。
本筋である“呪いによる殺人”もさることながら、唐突に判明する探偵役(本業は賭博師)ローガン・キンケイドの数奇なる半生も味わい深い。細部に至るまでアクロバティックさを堪能できる作品である。
評価:
食事中のテーブルで、ちょっとした口げんかの際に出た「呪いの言葉」。島を所有しているフラント氏に向かって、義弟のテスリン卿が言ったその「呪いの言葉」の直後、フラントは、死亡する…。
えーっ?! と思わず口に出しちゃうような展開に、あっという間にページは進みます。
不可能状態の犯罪、孤島、呪い、と気になる状況設定と要素とオカルトが絡み、その混じり方が、かなり巧妙で効果的。
探偵ローガンが、完璧な第三者ではない、というのもかなり読ませます。
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