『限りなき夏』

限りなき夏
  • クリストファー・プリースト(著)
  • 国書刊行会
  • 税込 2,520円
  • 2008年5月
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  1. シズコさん
  2. 東京島
  3. 百瀬、こっちを向いて。
  4. 荒野
  5. やさしいため息
  6. 限りなき夏
  7. 絞首人の手伝い
佐々木克雄

評価:星3つ

 あの映画の原作者だったのですね。(予告編でしか見てないけど)
「訳者あとがき」等を拝読するに“日本でもっと知られて欲しい”作者のようですし、作者自身も「日本版への序文」を寄せているし、たいそう熱のこもった本なのだと。
 八つの短編から構成されているのですが、ええ、どれも情感のこもった、ミステリアスな良作ばかり。自分のお気に入りは最初の二作品でした。入り組んだ時空で交差する人々の思いが、どうにもこうにもセンチメンタルな空気を醸し出しておりまして、読後「あふん、せつないのお」と柄にもなく遠い目をしてしまいました。
 でも後半、おぞましさとエロティシズムがうねうねと襲ってくるんですね。気がつけばそっちの方が印象深かったのかも知れない。嫌だな、夢に出てきそうな気がする──なもんだから、もう一度、最初の二作品を読み直してしまったりして。う〜ん、クセになりそう。

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下久保玉美

評価:星3つ

 SFの短編はやはりしんどい。状況の説明を意図的に排除し、人間の心理や行動を描くので「コレは一体どういうこと?」と消化不良に陥ってしまう。ああ、今回もそうなんかねえ、とあまり期待せずに読んだわけで…。やっぱり消化不良にはなるけれども、それ以上に各短編の不思議な雰囲気に飲み込まれた。そのおかげで「期待してない」から「結構面白かった」に格上げ。文章の持つ力ってやはり侮れん。
 面白かったのは「リアルタイム・ワールド」と「奇跡の石塚」。前者はある惑星の調査を行う探査船内での出来事。ある調査のために情報を1人の人間が操作することで地球とは切り離された空間の中、何が真実で何が操作された情報なのか、操作する人間にもわからなくなっていく状況が大変面白い。後者はある仕掛けが仕込まれており、その仕掛けがわかった瞬間、物語が一変する面白さがある。

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増住雄大

評価:星3つ

 クリストファー・プリースト? 聞いたことあるかも。代表作は『奇術師』に、『双生児』? わかった! それって、年末に発表されるミステリランキングにランクインしてたやつっしょ? だよね? 本屋でも見かけた気ぃするしー。確か、分厚めだったよね? え? SFなんだー。へえー。SFかあ。……ごめん。SFって、苦手なんよね。何だか難しくて途中からよくわかんなくなるからさー。
 これはそんなに難しくないから大丈夫? それ、前も言ってたよね。で、読んでみたらヤヤコシー内容の本であって挫折、と。だから俄かには信じられんなあ。ホントに大丈夫? じゃあ「大丈夫」の根拠言うてみ、根拠。1.短編集なので、1話1話が短い、ね。なるほど。確かに長ければ長いほど、仕掛けや設定が複雑になっていることが多いものね。で、ほかには? ……え! 終わり? 後は読んでみるしかないの? そっかー……。
 わかったよ。そこまで薦めるなら読んでみますよ。
 ……。
 あれ? ほんとだ。SFだけど、わかりやすいね。そしておもろい。普通の恋愛小説みたいに読めるし。

 つーわけで、わかんなくならんと思います。今回は。

 …………読んでなくても書けるような書評になってしまった。申し訳ありません。私は「青ざめた逍遥」が好きです。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 「奇術師」で初めて著者の名前を知ったので、ミステリー作家としての印象が強かったプリーストだったが、なるほど本書を読んでみれば紛う方なきSF作家とわかった。
 表題作ということもあり最も印象の強かったのは「限りなき夏」だが、一読者としての感想を言わせてもらえば、表題作はなぜ凍結されるのかの説明がないのがよい(主人公たちからの賛同は得られないことだろうが)。「愛こそすべて」的エンディングであるが、この後ふたりの蜜月はいつまで続くのであろうかと他人事ながら気が気ではない。
「いつもいつもしけた顔してんじゃねえよ」
「しょうがないでしょ、お金の苦労なんてしたことないもの」
「こんな女のために人生棒に振ったようなもんだな…」
「それはこっちの台詞よ!なんでこんな貧乏暮らししなきゃいけないの!きー!」
といった修羅場ばかりが思い浮かぶ。
 蛇足になるがあと1点。解説によればプリーストは凡庸な家庭に生まれたことを嘆いているそうだが、人間としてはまことに恵まれたことだ。個人的には話が合わないかも。

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望月香子

評価:星4つ

 8つの物語が収録された短編集。ロマンティックな恋愛物語、社会と自分との関係を描く物語、ホラーなどが、それぞれテーマにあります。どの物語も、根底には、愛と時間という命題が流れているように思います。
 特に好きなのが「ディスチャージ」。軍事訓練中の洗脳から、記憶を取り戻そうとする、若い男が主人公。「夢の大聖堂」なる場所を発見した男は、そこでさまざまな人の力を借り、自分自身を取り戻してゆき…。
 ひんやりとした雰囲気に包まれた、場面場面をさっと浮き彫りにする文体が、とても好きです。著者の作品を、もっと読んでみたいです。

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