『荒野』

荒野
  • 桜庭一樹 (著)
  • 文藝春秋
  • 税込1,764円
  • 2008年5月
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  1. シズコさん
  2. 東京島
  3. 百瀬、こっちを向いて。
  4. 荒野
  5. やさしいため息
  6. 限りなき夏
  7. 絞首人の手伝い
佐々木克雄

評価:星3つ

 ふむ、これもまた直木賞作家・桜庭一樹の小説なのだ。
「子供以上、大人未満」の黒髪の少女・荒野の成長を描いた長編なのだが、桜庭さんが描く小説には「匂い」と表現したくなるようなものがあり、それを受け入れるか否かは別の話として、独特な世界は、相変わらずねっとりと読み手に絡みついてくる。
 でも、中1〜高1のころ……って、もうえらい昔だし、でもって自分、男子でしたから、どうにも荒野ワールドに身を置けない。(有名出版社の編集長てなキャラもいるけど、あんなに脂っこくない)だからというワケではないが、やけに俯瞰的にページをめくっておりました。
 多分に、読む人によって感じるものや浮かんでくる景色がまったく違ってくるのではと。少年少女にとってはドキがムネムネだろう。自分の中には「やらしいやろぉ」と呟いているトヨエツがおりました。こんなオジサンが読んでしまってスマン──という気持ちです。

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下久保玉美

評価:星3つ

 「女、という生き物の、とりとめもない、わけのわからなさ……」(P135)
 本書はおぼこな少女が恋を知り、大人の女になっていく過程を描く小説。このパターンは著者の得意分野ではなかろうか。
 少女は母親を早くに亡くし、愛人がたくさんいる小説家の父親とその愛人の1人である家政婦との暮らしていたが、ある日父親が再婚することになり、このある種安定した暮らしは崩れ、新たな世界へと導かれることになる。内容としてはティーン向けという感じで、とにかくこの少女のおぼこぶりが愛らしい、というかいらつくというか。絶滅寸前でワシントン条約で保護されて然るべき、一昔前の少女マンガの主人公みたい。その周りを固めるのがまたこれが個性的な登場人物たち。父親をはじめ、再婚相手の母親とその息子で偶然クラスメートとなった少年、少女の友人たち。この友人の中で超美人、だけどレズビアンという子が物語に深みを与えている。この少女単体の物語が読みたい。きっと数奇な運命をたどってくれることだろう。

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増住雄大

評価:星3つ

 ひとりの女の子が「少女」から「女」へと変化する特別な時間を、ていねいに描いた物語。
 中学生って、こんな幼かったっけね。忘れていた気持ちや考え方を、思い出させてくれる作品です。べたべたし過ぎず、どろどろし過ぎず、さらさらし過ぎない恋愛もいい。初々しくて、微笑ましい。
 文体はラノベ寄り。というか第一部、第二部はライトノベルとして発表されていた作品なんで、寄り、じゃなくてまんまライトノベル。『私の男』だけ読んで、似たような作品を求めていた人は文体で戸惑うかもしれません。注意。
 自分の地元が舞台なんで細かいところが気になってしまいました。大船駅からバスで20分の塾ってどこ? 駅近辺の方が、たくさん塾あるよ。電車で違う駅に行くならわかるけど……とか。どうでもいいですね。

 蛇足の追記。
「悪霊退散」って心の中で連呼していたりとか「楽しいのかな……。かな……」っていう言葉遣いとかで吹いてしまった。別にパロディじゃないんだろうけど。

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松井ゆかり

評価:星5つ

 前作「私の男」で濃密な男女の情愛と共犯者でもある彼らの許されざる過去の秘密を描ききった著者。第138回直木賞受賞作でもあった作品であるが、その受賞後第一作が「荒野」である。…いや、戦略としてこれでいいのか、桜庭さん。直木賞の講評でかなり手厳しい意見を述べておられた選考委員の、例えば北方謙三氏あたりは本書を読んで血圧が上がったりしてはいまいか…と一読者が厚かましくも苦言と取られかねないようなことを書き連ねてしまったが、個人的にはこの作品大好きである。ああ、もう!と気恥ずかしさに身をよじらずにはいられない初々しくラブリーな初恋話。
 ほとんど手放しでこの小説を絶賛したいくらいだが、以下は今度こそ苦言(というかただの難癖)。
 ・主人公荒野の父正慶は「私の男」の淳悟によく似た感じであるが、この手の男子のよさがわからない(淳悟は特に同性からの熱烈な支持を得ていたようだが、どこがそんなにいいのか?)。
 ・「女の子だから勉強はほどほどでいい」みたいな記述があるのに不満を覚える(いわゆるライトノベル系の作家の作品によくみられる気が。必ずしも著者の主張とは限らないのだろうが…)。
 ・荒野も悠也もなぜコンタクトにしてしまうんだ! 以上。

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望月香子

評価:星5つ

 直木賞受賞した著者の受賞後第一作。主人公は12歳の少女、荒野。恋愛小説家の父親と「ばあや」との3人暮らし。
 12歳から16歳までの荒野の成長が、父との関係、社会、恋愛を通して描かれているのですが、桜庭一樹の生む少女は、やはり手強い。子供の鈍感さや無邪気さと同時に、女としての感性が見え隠れした鋭い観察眼に、参ります。主人公が幼い少女という時点で、損をする小説が多々あるように思うのですが、著者のそれは、その年頃の女の子の突出した感性ならではの物語となっています。 
 荒野たちが住む家にやってくる女性を捉える視点が、少女のまっさらさと、女のものとが交じり合い、大人と子供の間で揺れ動いている年代の女の子特有の感性が、炸裂です。
 感性鋭いけれど、やはり子供の荒野のそばで、ときに女性たちが発する、湿り気と粘り気の対比に、ぞくぞくとさせられます。こんな少女時代を送れたら、それは辛いことも多そうだけど、とてつもなく色っぽい女性になるのでは…。
 荒野以外の登場人物も、皆が主役になってほしいほど背景があります。素晴らしい。

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