『ラブファイト 聖母少女』

ラブファイト 聖母少女
  1. ラブファイト 聖母少女
  2. 子午線を求めて
  3. 誰よりもつよく抱きしめて
  4. 一九七二年のレイニー・ラウ
  5. 声をなくして
  6. 凍
  7. 社交ダンスが終わった夜に
岩崎智子

評価:星5つ

 あだち充さんの漫画では、ヒロインの方が主人公よりも断然頭もスタイルもよく人気があるパターンが多かった。大人気漫画『タッチ』でも、ヒロインは優等生で新体操のエースなのに、彼女に好かれる主人公は、最初のうち弟の引き立て役。でも、結局は主人公も甲子園を目指して野球を始め、ヒロインともども、それぞれ好きな道を選ぶ。ところが、本作ではヒロイン・亜紀が主人公・稔と同じ道、ボクシングを選ぶのだ。映画でも『ガールファイト』『ミリオンダラー・ベイビー』など、闘うヒロインが登場している。時代は変わったなぁ。ヒロイン、亜紀の不器用っぷりを見ていて、「ああ、こんなに、女の子は女の子であることに苦しんでいたっけ」と思い出していた。試合でキワもの扱いされたり、幼なじみの態度の変化に苛立つ亜紀を見ていると、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』からの言葉『人は女に生まれるのではない、女になるのだ。』という台詞も何だかふに落ちた。大人も子供も、不器用でいとおしい人たちばかりが登場する話。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 幼なじみの男女が主人公のボクシングラブコメ。気弱な男の子、立花稔がボクシングを通じて成長していくというあまりにもベタな設定の中で、この幼なじみの男女の関係が、好き同士なのに不器用な二人、というさらにベタな感じ。しかし、ど真ん中の展開ではない。そこは良い意味で期待を裏切られました。稔の幼なじみの女の子、西村亜紀は超のつく美人で勉強も出来る、しかも喧嘩もボクシングもめちゃくちゃ強い。強いのに女ということで直面させられる壁。タイトルに〈聖母少女〉とあるように、この西村亜紀の成長も物語のもうひとつの軸になっていて、恋愛は大きな要素にはなっているけどそれだけじゃないというか、通読してみると実はベタじゃなかったです。ただ、ボクシング部分もちゃんと描かれているとは思うのですが、最後の方の展開がスゴ過ぎるというか、やり過ぎな感じがしました。

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島村真理

評価:星3つ

 幼馴染の亜紀はケンカがめちゃめちゃ強かった。小さい頃から彼女に守られ、いつまでも勝てない稔は、中学生になってもふがいない自分に見切りをつけるため、ボクシング・ジム入門する。実直な会長に惹かれ、ボクシングの面白さにはまっていくが、稔と同じ高校に入学した亜紀も、ボクシング・ジムに通うという。
 ひ弱な男の子がコンプレックスを超えていくラブコメかと思ったら、真剣ボクシングのスポ根ものでした。その上、会長をめぐる大人の世界の愛像劇まであって盛りだくさん。稔のコツコツ成長していくボクシングスタイルを楽しむもよし、女というハンデを吹き飛ばす、世間に迎合しない亜紀の潔さをあじわうもよし。会長を含めた大人たちの四角関係の悶着がピリッとせず対照的だったが、ボクシングの世界を純粋に楽しめた。
 けれど、大人気ない策略に子供たちを巻きこんだりする心の動きが安直だし、亜紀の不可解な行動理由がどうしても腑に落ちないのだ。自分と作者との相性の問題だと思うのだけれど、もう少しどうにかなったんじゃないかと思って残念です。

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福井雅子

評価:星5つ

 高校生ボクサーと美少女の恋を描いた青春小説ね、と軽い気持ちで手に取ったはずが、あっという間に止まらなくなり、朝まで読むはめになってしまった。
 幼なじみの高校生・稔と亜紀のもどかしいまでの純恋とボクシングに対するまっすぐな姿勢が瑞々しく描かれ、そのあたりは予想通りの青春小説風の展開なのだが、ここに周囲の大人たちのさまざまな人生が織り込まれて、どちらがメインストーリーだかわからなくなるほどの厚みを物語に与える。夢破れた元ボクサーやその恋人だった女、恋愛などしないと言いつつ本気の恋に落ちる恋愛小説家、元ボクサーを生涯思い続ける女など、稔と亜紀をとりまく人々の人間くさい魅力がたまらない。稔も亜紀もまわりの大人たちも、不器用ながら必死で生きている。その姿が愛しくて、放っておけない。だからページを捲る手が止められないのだ。予想以上に面白く、厚みのある物語だった。

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余湖明日香

評価:星2つ

 映画『ラブファイト』のスチール写真の表紙で、映画のノベライズかと思って読み始めるとカウンターパンチをくらいます。
男勝りで喧嘩がめちゃくちゃ強い亜紀と、亜紀に守られ続ける自分を変えようと思った稔。この二人が大木ジムに入り、元プロボクサーの大木の下、それぞれのコンプレックスを払拭するために練習を重ねる。そこに、大木が忘れられない元恋人の順子と、順子の雇い主で売れっ子作家の純一が関わってくる。もう誰も彼もが会長会長と惚れ込んでしまっている。
スポーツによって弱い自分から抜け出すというのはスポーツ小説の定番だけれど、様々な登場人物の背景を丁寧に描いているので、大木を中心とした群像劇でもある。脇役にもしっかり焦点を当てていて、みんな不器用で本当の気持ちをなかなか口に出せないでいるというじれったさが、面白いところでもあるし、読んでいて冗長だなと感じるところでもあった。
風景の描写がほとんどなく、読んでいても白い靄がかかった中で登場人物たちが動いているようで場面が想像しづらかった。会話文と、登場人物たちの回想も多いので、ボクシングの試合のシーンなども緊張感に欠いている気がするのが残念だ。

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