『誰よりもつよく抱きしめて』

誰よりもつよく抱きしめて
  1. ラブファイト 聖母少女
  2. 子午線を求めて
  3. 誰よりもつよく抱きしめて
  4. 一九七二年のレイニー・ラウ
  5. 声をなくして
  6. 凍
  7. 社交ダンスが終わった夜に
岩崎智子

評価:星2つ

 「愛という感情は、複雑であり、多様だ」と何かの雑誌で読んだことがある。いろいろな感情をひとつにまとめるのは難しく、とりあえず便利だから、「愛」という名前をつけてしまっているのだ、とも。なるほど、だから、愛に正解などないと感じるわけだ。さて、本作の主人公は、「愛って何だろう」と悩み苦しむ一組の夫婦である。結婚して何年にもなるし、それぞれに仕事も持っている。お互いの存在が心地よい。けれど二人は夫の極端なまでの潔癖性が原因でセックスレス。そのために、二人の夫婦関係が揺らいでいく。体のふれあいがないのに、愛していると言えるのか?ここにもまた、自分達にとっての愛を求めてさまよう人達がいる。たぶん、いつかどこかであなたが迷ったように。優しい人たちばかり登場するので、韓国ドラマ『冬ソナ』に胸をときめかせた女性達にもウケそうだ。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 人肌恋しい、というのはいつも思うわけではありませんが、誰しもふと思う時があると思います。特に、愛する人と触れ合いたいという欲求は万人共通のものです。しかし、本作の主人公月菜は愛する人が不完全潔癖症という心の病で、直に触れることも触れられることも出来ない状況です。性的な肉体関係だけではなくて、相手が悲しい時に直接肩も抱けない、手を握ってあげることも出来ない。それはどちらにとっても辛いことです。相手も辛いことがわかるから、相手の幸せを一番に考え相手のためになると思って行動することが二人の溝を深めていく結果になったりするのは読んでいてせつなくなりました。設定が凝っている昼ドラっぽい感じで、グイグイ引き込まれて読め、読了後は読みながら感じていたドロドロした気分もなくなり、非常に気分良く読み終えました。

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島村真理

評価:星3つ

 世の中にはいろんな病気がある。薬や手術で治るものから、精神的なもので明確な治療が難しいものまで。水島月菜の夫、児童文学作家の良城は強迫的な潔癖症。とても優しくと思いやりのある夫だけれど、ある出来事から妻に指一本触れることができない。二人の気持ちがすれ違ってなかなか交わらないせつないお話だ。
 愛しているのに何らかの障害がある(または障害となる人がでてくる)。というのは、恋愛ものの永遠のテーマで、王道のシチュエーション。叶いそうで叶わない、結ばれそうで結ばれない。じれったければより楽しみも増える。この小説はその黄金律をもっていて、じりじりさせられました。
 月菜に言い寄る年下の男前のバーテンダー。夫と同じ病気を持っていて、彼に好意を寄せている女性の登場。子供ができないのは嫁のせいだと決めつける姑。恋愛なんてゲームだと考えている女友達。月菜と良城が抱える問題がちょっと特殊なだけで、他はステレオタイプでひねりはない登場人物たちだが、長年よりそった夫婦に訪れる危機がわかりやすく楽しめる。純愛小説のど真ん中をついています。大人のための恋愛小説でしょう。

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福井雅子

評価:星3つ

 甘〜い恋愛小説を予想していたのだが、よくあるベタ甘恋愛小説とは少し趣が違って、強迫的な潔癖症を患う夫への愛と、年下のゲイの青年への愛の間で揺れ動く主人公の心に焦点をあてた小説。安易な不倫ものにありがちなエロチシズム主導の展開に偏ることなく、精神的な苦悩に重心を置いた純愛小説に仕上がっている。
 相手と深くかかわり合いたいと思う気持ちが恋愛の原点であるなら、精神的な触れ合いと物理的な触れ合いのどちらか片方が欠けてしまうとどうなるのだろう……というテーマには興味を惹かれる。主人公、その友人、夫など主要登場人物が恋愛小説の中にしかいないようなステレオタイプ的なキャラクターである点では面白味に欠けるし、結末もなんとなく予想できてしまうところがやや残念だが、テーマが面白いので切り口が変わった感じの恋愛小説として楽しく読める。

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余湖明日香

評価:星2つ

 結婚を前提に同棲してみたら些細なものの位置や生活スタイルが原因で別れることになったというのは、よく聞く話だけれど、この小説の夫婦の間に横たわる問題は些細の一言では片付けられない。不潔潔癖症と不完全潔癖症という病にかかっている夫と、主人公の妻は7年間のセックスレス生活だ。正しい位置にきっちり物がないと気がすまないこととあわせて、手に触れるものはラップで包んだものを使い、人の体に触るなんてもってのほかという夫。体に触れられない不安、相手のことを理解できないのではないかという不安、体と心の二重の苦しみを夫婦はどう乗り越えていこうとするのか。奔放な女友達や、魅力的な年下の青年、夫と同病の女性などによって揺れ動く心を追っている。恋人から夫婦へと形を変えても、そこにあるものは安心とか安定とはほど遠いんだなあと感じた。結婚後に読むとまた違った印象になるのかもしれない。
絵本専門店経営者である妻と絵本作家の夫を結びつけたのが、『空をしらないモジャ』という絵本。この絵本が夫婦二人の心情を表し、作中効果的に使われているけれど、そのテイストが作品から浮いていて、いかにもこの小説のために作りました!という感じがしたのが気になった。

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