『子午線を求めて』

子午線を求めて
  1. ラブファイト 聖母少女
  2. 子午線を求めて
  3. 誰よりもつよく抱きしめて
  4. 一九七二年のレイニー・ラウ
  5. 声をなくして
  6. 凍
  7. 社交ダンスが終わった夜に
岩崎智子

評価:星3つ

 海外に行くと、路面電車や地下鉄に乗ってみたくなったあなたは、本書を読んでぎょっとするかもしれない。パリの地下鉄について、「汗でぐっしょり濡れた背広も皺くちゃのドレスも?コールタールと石炭酸がぷんぷんにおう階段を雪崩をうって転がり落ち、まっ暗闇に吸い込まれていく(p101)」なんて書かれているのだから。花の都といったって、日本のラッシュ時とあまり変わらない。第一章は、そんなパリの街角にこっそり置かれている円盤を探す過程を描いている。今でこそ子午線はイギリスのグリニッジと決まっているが、以前はパリを通過する経線が子午線とされていた。円盤はその頃の名残で、天文学者アラゴーの名と南北を表すNSを刻んであるそうだ。第二章?第四章は文学の紹介で、時折映画の話題も混じる。書評家志望の人達にとっては、文章の構成や内容紹介の仕方など、参考になる所が多いかもしれない。うまいな、と思ったのは「美しい母の発見」。ただ、文学や映画に全く関心のない人にとっては、文章が堅くてとっつきにくいかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 パリ子午線上に埋められた円盤をたどる表題作は、パリ子午線というものを知らなかったこともあり興味深く読みました。フランスの詩人ジャック・レダと著者とのやりとりも師匠と弟子のようで微笑ましく読みました。
 本作の後半ではフランスの芸術について書かれていて、映画『ザ・マシーン 私のなかの殺人者』の原作『機械』の原作者ルネ・ベレットについて書かれた「カメレオンになろうとしているのに、世界はたえず私から色を奪っていく」や作家クリストフ・ドネールをサッカーの名審判である伯父とからめて描いた「ぼくの叔父さん」など、興味深い作品は多くあるものの、ほとんどの作品は私の知識不足が原因で、ついていけないところが多かったです。とりあげている作品について知らないのは良いとして、その作品を説明するための例えに出てくる作品もわからない。これはちょっと辛いところですが、読んだ後に調べたりすることで知識の幅も広がりますし、何だか豊かな気持ちにはなります。

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島村真理

評価:星3つ

 子午線が、グリニッジ天文台を通る本初子午線以外にもう1つあることを知ったのはそんなに前ではない。ベストセラーにもなった「ダヴィンチ・コード」がそうだが、ほんというと、ちゃんと意識したのは本書で。現在のグリニッジ子午線が“本初”となるまで、フランスではこのパリ子午線が基準だったようだ。その「パリ子午線」を同名のタイトルで追ったレダの本がきっかけとなり、著者がたどる子午線の旅。どこにあるかうやむやな鋲を求めパリをさまようように、著者の思索もただよっている。フランス文学をたどる21編の読書記録。
 仏文学者で芥川賞受賞作家でもある堀江敏幸。さすがというか、たくさんの仏文学とパリの風景を取り上げて紹介してくれている。いかんせん仏文になじみがない上に、少しは知っているパリ旅行の記憶も遠い彼方。心地よく読み切るには、理解がついていけずに苦労してしまいました。
 しかし、「わかる、納得できる」だけが読書じゃありません。少し背伸びをして、未知の世界をのぞき見るのも立派な楽しみ方のひとつだと思います。

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福井雅子

評価:星3つ

 エッセイのような読書ガイドのような作品で、とにかく無条件でフランスが好きだという人や、フランス文学に詳しい人にはたぶんとても楽しい本である。でもそれ以外の読者には内容的にはやや退屈かもしれない。……にもかかわらず感心してしまったのは、文章があまりにもおしゃれだから! 言葉の選び方、組み合わせ方、言い回し、文章のリズム、すべてが洗練されていて上品なのだ。ただ上手いだけではなく、文章にも「センスのよい」「おしゃれな」文章があるのだということをこの本で再認識させられた。
 まるで香水でも本に染み込ませてあるかのように、ページをめくるたびに魅惑的な香りが匂い立つような、そんな文章は一読の価値ありではないだろうか。ただし、読書のお供は紅茶かカフェオレで。この本を読むときに限っては抹茶や昆布茶は似合いません。

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余湖明日香

評価:星2つ

 堀江敏幸さん、お名前はよく聞くけれど読んだことがなく、堀江貴文と名前が似ていることからなんとなくいいイメージを持っていなかった。(私、角田光代さんも浅香光代と名前が似ていることからしばらく読んだことがなかった。今では大好きです)
第1部「子午線を求めて」は、現在のグリニッジ子午線が標準化される前に、フランスで用いられていたパリ子午線を辿るエッセイ。パリ子午線を整備したアラゴーの功績を称え、架空の子午線上に銅盤を埋め込んだヤン・ディベッツ。その銅盤を探して歩き、『パリ子午線』をしたためた詩人・ジャック・レダ。そして『パリ子午線』を元に、銅盤を探し、パリの町を歩き回る堀江敏幸。多くの人々が住み歴史が生まれた土地と、そこで出逢った人々との触れ合い、映画、本へと縦横無尽に広がる思考の連なりを丁寧に描いている。
ただ第2部以降、フランス文学をほとんど読んだことがなく、ヨーロッパの中でもフランス映画をあまり見ていないので、読んでいても内容が抜けていってしまうところが多々あった。うーん、大学の仏文の授業のよう。どんな真面目な文学者なんだろうと、「文藝」2006年秋号のいしいしんじさんとの対談を読み返してみると、笑顔の素敵なやわらかい雰囲気を持った人ではないか。
自分の不勉強と、思い込みの浅はかさを実感した一冊。

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