『うるはしみにくし あなたのともだち』澤村伊智
●今回の書評担当者●宮脇書店本店 藤村結香
「ブス」という、たった2文字の威力を知らない人の方が少ないだろうと思う。同級生から異性から同性から年下から年上から、さまざまな人にどのような形で言われても、この2文字はどうしようもなく心の奥底に刺さって抜けなくなる......何故でしょうね、本当に。気にしなければ良い、と他人も言うし自分でも思うけれど、"それ"は刺さったまま抜けてくれない。まるで呪いのような言葉です。
本書はそんな呪いを頁の端から端まで染み込ませたような小説でした。
四ツ角高校三年二組の一番の美女といわれ、カーストもトップのグループに属する羽村更紗が突然自殺した。葬儀では、両親が彼女の顔を見せることを頑なに拒んだので、誰も彼女の最期の顔を見ていない。葬儀の後に噂が流れる。更紗は顔を老婆のように皺くちゃにされて、それを苦にして自殺したのだと。そして、それをした原因となったのは「ユアフレンド」のおまじないなのだと。それは、とあるノートを受け取った者は、クラス生徒の見た目を醜く(あるいは美しく)することができるというものだった。
その後、三年二組の女子が次々と顔を醜くされたり、傷つけられたりしてゆく。しかも、周囲の目がある場で、明確に。担任教師の舞香は「ユアフレンド」の存在を知り、生徒の誰かがおまじないを継承したのだと推察し、それを信じてくれる生徒や同僚と共に調べていくのだが──。
一体犯人は誰なのか、次の犠牲者は誰なのか、事件に怯える者もいれば、顔の美醜で大騒ぎするなと怒るものもいる、まるで悪気がないような態度で面白がるものもいる......ハラハラドキドキのホラー小説、なんてものではありません。1頁読むごとに毒を呑みこんでいるような気持ちになるような地獄小説でした。この作品を読んだ人の感想を片っ端から読みたくてたまりません。皆さんはこの毒をどう呑みこんだのでしょうか?
人間は醜いなあ、残酷だなあ、私を含めて!
ああ、怖い。怖すぎる。どす黒いドロドロしたものが胃の腑にたまっていくようでしんどい。お腹が痛くなったような気すらしました。
そこまで書くのか、書いてしまうのか。恐るべし澤村伊智。
本当に容赦なく、おまじないの呪いは「嘘でしょう、この人まで」という人にも降り注ぎます。本筋の大切な所に触れてしまうのであまり言えませんが、この人間達だけは許しておけない、という大人達にはなにも起こらなかったりもするのです。その理不尽さの生々しさ。もう......本当にどうやってこの小説を書いたのですか?と聞きたくなります。
ホラーミステリーとしても勿論骨太で、展開が二転三転するので犯人の予測がつきませんでした。私は最後の最後で騙されていた1人です。
見事に「救い」だなんて甘っちょろいものはありませんでした。後味悪いことこの上ない。けれど、だからこそこの小説をもっと沢山の人に読んでほしい。人はいともたやすく、たった2文字で、一言で、人を傷つけてしまえる生きものなのだと、改めて考えさせられる作品です。
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- 宮脇書店本店 藤村結香
- 1983年香川県丸亀市生まれ。小学生の時に佐藤さとる先生の「コロボックル物語」に出会ったのが読書人生の始まり。その頃からお世話になっていた書店でいまも勤務。書店員になって一番驚いたのは、プルーフ本の存在。本として生まれる前の作品を読ませてもらえるなんて幸せすぎると感動の日々。