『魔眼の匣の殺人』今村昌弘

●今回の書評担当者●勝木書店本店 樋口麻衣

 デビュー作にして前代未聞のミステリランキング3冠達成、ミステリ界の話題をさらった『屍人荘の殺人』。このたび、待望の続編『魔眼の匣の殺人』が発売されました!!

 今作の舞台となる「魔眼の匣」は、『屍人荘の殺人』で登場した「班目機関」のかつての研究施設の一つ。魔眼の匣の主は、未来を見通す力を持った予言者と恐れられる老女・サキミ。予言を外したことがないと言われるサキミがこう告げる。

「あと二日のうちに、この地で、男女が二人ずつ四人死ぬ」

 そして、魔眼の匣に集まった男女九人。魔眼の匣と外部を繋ぐ唯一の橋が燃え落ちた後、一人が死に、残った者たちは魔眼の匣に閉じ込められる──。

 このように本格ミステリの王道とも言える流れで、話の幕が開きます。前作の『屍人荘の殺人』も途中までは本格ミステリの王道の流れで、途中で飛び道具的な○○○があったのですが、はたして今作は......。

 男女が二人ずつ四人死ぬ。この意味は? 誰と誰が? 男が二人死ねば残った男は助かる? 生き残るための殺人? 男が死んだなら、女は犯人ではない? それとも性別がもともと違う? そもそも予言は本当に当たるのか? 様々な推測が頭の中を駆け巡ります。ただ一つ確実なのは、閉ざされた魔眼の匣で殺人が起きたら、犯人は中にいる人のうちの誰かだということだけ。

 ミステリを読むなら、推理したいし、ドキドキしたいし、騙されたいし、驚きたいし、興奮したい。でも読みにくいのは嫌だし、登場人物が多すぎて誰が誰だかわからなくなるのもツライ、そして、新鮮味も欲しい。そんなミステリ好きのたくさんの願いを満たしてくれる、満足感いっぱいの作品です。

 著者の今村昌弘先生の講演会でうかがったのですが、もともとミステリを多く読んでいるというわけではなかったので、ミステリを書くにあたって、名作と言われるミステリを読んで研究されたそうです。

 本当にその通りで、読者を楽しませるための仕掛けが、小さいものから大きいものまでたくさん施されています。設定も、キャラも、展開も素晴らしく、特に終盤からラストにいたるまでの展開は、身体中の全細胞が目覚めるくらいの大興奮でした。何を書いてもネタバレになってしまいそうで、詳しくは書けませんが、いろんな波がどんどん押し寄せてきて、そのすべての波に気持ちよく乗ることができた、そんな感覚です。

(読後すぐに大興奮の状態で店頭用に書いたPOPには、「たい焼きのしっぽの先まであんこが詰まっていて、うれしい、得したぜ! みたいな」って書いています。興奮しすぎて少し意味不明ですが、この感覚、読み終えた人ならわかっていただけませんか......?)

 二作目のハードルは上がっていたと思いますが、今作を読んだ読者はきっとこう言うでしょう。「今村昌弘、すごい! ○○○じゃない今村昌弘もやっぱりすごい!!」

 一ファンとして、個人的には前作『屍人荘の殺人』のほうが衝撃度が高かったですが、今作の『魔眼の匣の殺人』のほうが満足度は高かったです。どちらも自信を持っておすすめできる作品です。さらに、続編があることを匂わせるラストでした。続編にも期待しています!

« 前のページ | 次のページ »

勝木書店本店 樋口麻衣
勝木書店本店 樋口麻衣
1982年生まれ。文庫・文芸書担当。本を売ることが難しくて、楽しくて、夢中になっているうちに、気がつけばこの歳になっていました。わりと何でも読みますが、歴史・時代小説はちょっと苦手。趣味は散歩。特技は想像を膨らませること。おとなしいですが、本のことになるとよく喋ります。福井に来られる機会がありましたら、お店を見に来ていただけると嬉しいです。