『見仏記 道草篇』いとうせいこう、みうらじゅん

●今回の書評担当者●八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実

  • 見仏記 道草篇
  • 『見仏記 道草篇』
    いとう せいこう,みうら じゅん
    KADOKAWA
    1,870円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

仏像が好きだ。一時期『仏女』という言葉が流行したけれど、まさに私も仏女である。信仰や思想としての仏像というより、見るとホッとする、あの仏像はグッとくる、イケメン、かわいいなど美術鑑賞としての仏像とも違うなんだか自分でもわからない感情で仏像を見ている。そこから気になる仏像ができると歴史や宗派、背景を調べ始めるのである。
 
中学高校と奈良京都に修学旅行で連続で行き、その時には仏像やお寺をほとんど見ずに友達とばっかり話していた私がなぜいきなり仏女になったかというと、講談社からでていた『週刊日本の仏像』とKADOKAWAからシリーズで出ている『見仏記』に書店員になってから出会ったからである。

原寸大ギャラリーの付いた週刊日本の仏像で様々なお寺の仏像が家にいながら間近で見ることができる。その中でも4号目の東寺1不動明王と立体曼荼羅、22号目の東大寺2不空羂索観音と法華堂の古仏に圧倒された。お堂の中にギュギュっと仏像がまさに「おわす」様が圧巻で、まるで異世界なのである。立体曼荼羅一体一体の仏像の表情もすべて感情が入っており、自分を見透かされたようで心臓がキュッと縮こまり、東大寺の日光月光の静かな表情にたまらなく癒される。そのような仏像の佇まいに一気に引き込まれてしまったのだ。
 
毎週購入しては家で何度も写真を見て癒されたり自分のことを反省したりしていた時、なにか仏像に関する本を読みたいと探した中に見仏記があり、さっそく購入した。いとうさんの文章とみうらさんのイラストでいままでの仏像鑑賞の世界が一変した。

「戒壇院はみーんな男前でね、仏フェロモン出してる。特に広目天は出してますよ!」「三月堂。かっこいいんだ、スター勢ぞろい」

イケメンとかかわいいとかグッとくるとか、そのように見ることを少し不謹慎なのかも私、と感じていた中、ああ、こんな風に仏像を見ていいんだ!と心から感動した瞬間である。そしてそれを見仏といい、一緒に見に行く二人は仏友であるという。

「気がつくと、不空羂索観音のまん前で、みうらさんが畳に寝転がっていた。組んだ足を本尊の方に向けている。怒られやしないかとヒヤヒヤしながら、そのみうらさんの横に座った」

この一文を読んだときに、家で鑑賞しているだけで満足していた仏像を直接見に行くことを決意した。なんで今まで自分で本物を見に行こうと思わなかったのか不思議だった。こうやって直接向き合ってみたいと思ったのだ。早速次の次の休みに始発の新幹線で京都奈良まで行き同じように畳に座って拝観した。もちろん「加藤登紀子」さんに似ているとみうらさんが言っていた興福寺の仏頭も拝観した。
 
「見仏記」文庫版の最新は7巻。こちらはなんとお二人が出演しているTV見仏記とのメディアミックス編である。文章とイラストで見仏していたものをさらに映像とクロスし仏像を語っていく。いとうさんのあとがきには『私が「ああそう」とだけ答えていても(映像)、頭の中ではみうらさんの新説に実は興味津々なことがわかる(文章)』見仏記ファンとしてこんなにも面白いことはない。

ここでは先に書いた東大寺の法華堂に再訪しているのだが、日光月光菩薩はいまは東大寺ミュージアムにおわすという。「法華堂の中で見たいなあ」とみうらさんが言うその言葉が、その仏像たちのいまに続く歴史をも語っているように思う。
  
単行本最新刊では長野・群馬・大分・青森・そして中国まで見仏にいってる二人がみれる。そしてタイトルは道草篇。電車に乗ってさっとお寺に行くだけが見仏ではなく道草をも見仏のひとつなのだ。
 
二人の軽快なかけあいやお寺、仏像、寺宝の歴史、そしてなぜか住職さんの近況までをも知れる「見仏記」を持って、また見仏の旅ができる日をいまかいまかと待ち望んでいる。
 
 
 

« 前のページ | 次のページ »

八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
八重洲ブックセンター京急上大岡店 平井真実
サガンと萩尾望都好きの母の影響で、幼少期から本に囲まれすくすく育つ。読書は雑食。読書以外の趣味は見仏と音楽鑑賞、ライブ参戦。東大寺法華堂と阿倍文殊院が好き。いつか見仏記のお二人にばったり境内で出会うのが夢。