『きのうのオレンジ』藤岡陽子

●今回の書評担当者●ゲオフレスポ八潮店 星由妃

「本の雑誌増刊 本屋大賞2021」をくまなく読んでいる人にはご存知であろう、藤岡陽子さんの『きのうのオレンジ』(集英社)は一次投票では11位だった。

 10位の加藤シゲアキさんの『オルタネート』(新潮社)は66点、『きのうのオレンジ』64.5点で本当に惜しい点数差だった。

 本屋大賞は10位までがノミネート作品として2次投票が出来るシステムだ。

 何と言う事だ! 私は『きのうのオレンジ』に投票していた1人だったので増刊号で結果を見た時に絶句してしまった。

『きのうのオレンジ』に投票した書店員の方、発行元の集英社さん、ましてや藤岡陽子さんの落胆ぶりは手に取るようにわかるつもりだ。

 私は敢えて本屋大賞コーナーの場所に11位だった『きのうのオレンジ』を置いて未読の方に手に取ってもらえるようにしている。

 作者の藤岡陽子さんは現役の看護師さんで常に「生と死」に向き合っている方で作品も患者の立場、家族の立場が鮮明に描かれている作品が多い。

『きのうのオレンジ』は33歳という若さで胃がんを宣告された主人公・遼賀の死との向き合い方、その家族、周りの人との付き合い方について描かれている。

 家族には見せられない苦しみを、どんな形でもいいから私なりに受け止めたいと思いながら読了した。

 人は最期にたったひとつの気持ちをもって逝くのかもしれない。

「みんな、ありがとう 」と。

 普段は意識していない家族との何気ない会話がいかに必要だったのかと作品を読んで改めて考えさせられました。

 昨年から続いている新型コロナの影響で家族と会えない大変な今だからこそ家族の事を思い出しながら『きのうのオレンジ』を読んで欲しい。

 遠くて会えない家族が万が一,コロナにかかってしまったら会えないまま最期を迎えてしまう。

 不謹慎かもしれないが新型コロナのおかげで家族と向き合えた人もいる。

 私自身、家族と離れて暮らしているのでその1人だ。会えずにいる時に体調不良と聞くと心配でたまらない。もしかしたらコロナかではないか?と。きちんと病院に行って診てもらうまで安心出来ない。

 作中の病名は胃がんだが主人公の遼賀を私の家族だったらと思いながら読み涙腺崩壊した。医療は日々,進歩しているがどうしても治せない病気もある。人間は不死身ではない、誰でもが死を迎える。

 コロナ禍で大変な今だからこそ、じっくりと大切な家族のことを思いながらひとりでも多くの人に『きのうのオレンジ』を読んでもらいたい。

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ゲオフレスポ八潮店 星由妃
ゲオフレスポ八潮店 星由妃
岩手県花巻市出身。課題図書は全て「宮沢賢治作品」という宮沢賢治をこよなく愛する花巻市で育ったため私の読書人生は宮沢賢治作品から始まりました。小学校では毎朝、〔雨ニモマケズ〕を朗読をする時間があり大人になった今でも読んでいて素敵な文章があると発声訓練のごとく、つい声を出して読んでいる変な書店員です。