『眠れない夜にみる夢は』深沢仁
●今回の書評担当者●福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
はじめて読み終えたとき、この本に出逢えた喜びに心が大きく震えた。
この『眠れない夜にみる夢は』で深沢仁さんを知った。途端に惚れた。
これほど、こんなにも素敵な物語をつくる作家さんを私はいままで知らなかったなんて、、!
生涯読み続けたいと感じるほどの大好きな作家さんがひとり増え、本当に本当に嬉しかった。
物語が、そして文章が素敵なのはもちろんなのだが、この独特の時間の流れというか空気感というか、深沢仁作品特有の居心地の良い雰囲気。これが、ほかでは決して味わえない魅力だ。
この心地良さの虜になり何度読み返したかわからない。
この本には5つのお話が詰まっている。
どの登場人物もどこか不器用で、しかし信念を持って生きている。だから時として生き辛いのだろう。でも。だからこそ、人生は面白いとも感じられる。
「明日世界は終わらない」この作品を、私はたぶん一生忘れない。ずっと覚えているだろう。
うれしい、寂しい、焦燥、ときめき、愉しい、せつない、くやしい、もどかしさや、まだ名前の無い感情までぜんぶ入ってた。短篇なのにぜんぶ、だ。
「三角関係」の当事者たちはそんな言葉だけではあらわせないくらい、その距離やお互いを愛していた。ここにあったのは紛れもない愛だと思う。
「家族の事情」もニヤニヤしてしまうほど好きだ。
双子の姉と僕は正反対だ。そして、自分には男をみる目がないと認めた姉は、結婚相手を僕に決めてほしいと頼む。僕はあるひとを姉に紹介する。...突拍子もない流れのようだが、読めばわかる。すごく、ものすんごく面白かった。やはりここにも愛があった。
1冊を通して、愛の重さ(大きさ? 深さ?)こそ違えど、根底にあるのはきっとそれで、だから信頼できる。
いろんな愛があることに安心してほしい。形など無いことを信じてほしい。
最後に「あとがき」を読んで、ここでも居心地が良くてほっとする。
今回は少し大人たちを書こうと思った、とある。年齢の話で、中身の話ではない、と。この箇所で私はさらに嬉しくなってしまった。
私は、歳を重ねれば大人になれると思っていた時期があった。(あなたも?)
けれど違うと知った。
私は年齢は「分類:大人」だが、中身は大人ではない。(あなたも)
毎日毎日大人ぶって過ごしているだけだ。
『今日は随分大人ぶっちゃった』『大人みたいな会話に慣れてきた』そんなひとに、この本をお届けしたい。
余談だが「あとがき」には、深沢さんがあとがきを書く間にかけていたBGMリストが載っている。
いまわたしも全く同じリストで耳からも味わっている。贅沢な体験だ。
特別なギフトみたいな一冊だった。
- 『円卓』西加奈子 (2025年2月6日更新)
- 『彗星交叉点』穂村弘 (2025年1月2日更新)
- 『隣人のうたはうるさくて、ときどきやさしい』白尾悠 (2024年12月5日更新)
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- 福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
- 福岡県糸島市在住。2020年福岡金文堂志摩店入社。2022年頃から文芸文庫担当。夫がひとり娘がひとりの3人家族。江國香織が好き。大好き。ミステリやコワいものグロいものも大好物。整体ですべての筋肉が眠っていると言われたことがある。だからかよくつまづく。いろんな意味で。