『禁忌の子』山口未桜

●今回の書評担当者●精文館書店豊明店 近藤綾子

  • 禁忌の子
  • 『禁忌の子』
    山口 未桜
    東京創元社
    1,870円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

書店で本を選ぶキッカケとなるのは、何ですか? 表紙などの装丁、帯に書かれた言葉、出版社が作ったパネルやPOP、もしくは、書店員が作ったPOPですか?

バレないと思って、このまま黙っておこうと思ったけど、やはり、自白しておこう。前々回、日野瑛太郎さん『フェイク・マッスル』(講談社)をおすすめした際の書き出しと一緒である。その時は、POPとか帯とかをメインに取り上げたけど、他にも本をチョイスするキッカケがありますよね。私もそうだけど、作家買い(好きな作家の作品なら、とにかく、購入して読む)や、そして、もう一つ、タイトル買いである。

インパクトのあるタイトル、ラノベなどに見られるタイトルが長いもの(どこまでがタイトルやねん!とツッコミを入れながら、品出しをしている書店員がいたら、私です)等々、とにかく、「なになに?!」と好奇心をくすぐるようなタイトルの本は、つい手に取って、どんな話なんだろう?と読んでみたくなるはず。

で、今回は、山口未桜さん『禁忌の子』(東京創元社)を取り上げる。

「禁忌」①→タブー① ②『医』その症状の人に、ある療法・投薬をしてはいけないこと。
「タブー」①『宗』神聖なものとして禁じられていること/たもの。
<引用 「三省堂国語辞典 第七版 阪神タイガース仕様』(三省堂)>

 とある。

 さて、「禁忌の子」とは、一体誰を指すのか?

 救急医武田が勤務する病院に、身元不明の溺死体「キュウキュウ十二」が搬送されてくる。その遺体は、なんと、武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか? 何者なのか? そして、何より、武田との関係は何であるのか? 旧友で同じく医者である城崎とともに、謎を追うと、武田自身の思いがけないルーツと真相に辿り着く...。

 ただのそっくりどころか、他人には知られるはずのない体の特徴までそっくりとなると、ただ事じゃないのは、素人でも分かる。死体が自分と気持ち悪いくらい瓜二つという衝撃の展開が冒頭にあるから、気になって、読まずにはいられない。掴みが抜群。最高。

 そして、この小説の場合、絶対、ネタバレ厳禁である。そのため、下手なことが書けないし、私には、巧くネタバレにならないように書く技術もないのが悔しい。

 とにかく、一体誰が「禁忌の子」なのか?とずっと考えつつ、読んでいたら、衝撃のラストとともに、答えが用意されていた。

「禁忌の子」。これ以上のタイトルはない。というか、これしかない。タイトルの見事な回収に大興奮。

 ただ、この結末には、反発する人がいるかもしれない。こういう嫌悪される可能性もあることに、挑戦するって、すごい作家さんだな~と思ったら、新人作家さんではないか!

 第三十四回鮎川哲也賞受賞作。デビュー作である。江戸川乱歩賞を受賞した日野さんの『フェイク・マッスル』もデビュー作には思えなかったけれど、この山口さんの『禁忌の子』もデビュー作とは思えないクオリティ。

 ましてや、山口さんは、現役の医者ときたもんだ。なるほど、だから、病院の描写がリアルだし、医療の蘊蓄が淀みなく、盛り沢山なのか!と、一人で納得。

 それにしても、現役医師で、作家をされている先生って多くない?あの先生も、この先生も...一体、何人、いらっしゃるんだ?! 先生方の頭は、一体どうなっているんだ?とにかく、新たな才能の持ち主の作家誕生に、読者としては、嬉しい限り。

 もう一つ、嬉しいことが。すでに、『禁忌の子』の続編が決まっていること。今回、探偵役をした医師の城崎でシリーズものになる模様。私、城崎先生、タイプなので、嬉しい! きっと私だけじゃないはず。すでに、城崎ファンが、たくさんいるはずだ。

 最後に。作中に、「阪神ファンに悪い奴はいないはずだ」とあり、阪神ファンの登場人物が出てくる。阪神タイガーズの選手名や試合のことも出てくる。兵庫県生まれで、大阪在住の著者の山口さんは、私と同じく、阪神タイガーズファンのはず。

 というわけで、私は、このデビュー作『禁忌の子』を激推しし(私が激推ししなくても、現在、めちゃくちゃ売れているけど)、今後の作品、そして、山口先生を応援するぞ!

 だって、阪神ファンに悪い奴はいないから!

« 前のページ | 次のページ »

精文館書店豊明店 近藤綾子
精文館書店豊明店 近藤綾子
本に囲まれる仕事がしたくて書店勤務。野球好きの阪神ファン。将棋は指すことは出来ないが、観る将&読む将。高校生になった息子のために、ほぼ毎日お弁当を作り、モチベ維持のために、Xに投稿の日々。一日の終わりにビールが欠かせないビール党。現在、学童保育の仕事とダブルワークのため、趣味の書店巡りが出来ないのが悩みのタネ。