『日記の練習』くどうれいん
●今回の書評担当者●精文館書店豊明店 近藤綾子
マイブックが店頭から消えた!
昨年末、気がつけば、あの「マイブック」(新潮文庫)が在庫なし!
えっ?! なんで? 毎年、たくさん返品してるやん!(すみません。)
そして、年末から年始にかけて、毎日、マイブックの問い合わせ。
来店される方も、電話の問い合わせも、ほとんどが若い女性からであった。
なんや、なんや? と騒いでいたら、SNSでバズっていると知る。どの方が流行らせたのか、知りたくて、調べまくったけど、私には見つけられなかった(ご存じの方は、教えてください)。
とにかく、ネットで調べてみたら、いわゆる、「日記界隈」で流行っていることは分かった。
普通に、手帳や日記として使っている人もいるけれど、絵を描いたり、写真を貼ったりと様々。見ているだけでも、書いてる人が楽しんでいるのが分かるし、それらを読むこちらも楽しい。
そう、日記は面白いのだ。そして、私は、他人の日記を読むのが大好きだ。なんて、書くと、ヤバイ人のように聞こえるが、世の中には、日記、もしくは日記形式で書かれた本がたくさん出ている。それに、日記文学って、昔からある。学生の頃、古典の授業で習いませんでしたか? 『土佐日記』『蜻蛉日記』『更級日記』『紫式部日記』等々。学生の頃は、勉強のために読んでいたから、これらの日記を楽しんで読むまではにはならなかったけど、今から考えると、当時の生活の様子や作者の心情などが描かれているわけで、もっと楽しんで読めば良かったと後悔。紫式部が、清少納言や和泉式部に対し、悪口を言っているなんて、ニタニタしながら読めそうだ。
ちなみに、私が好きな日記本は、好きな人が多い武田百合子『富士日記』。好きすぎて、もう、何遍も読んでいる。
昭和の日記が武田百合子ならば、令和の日記として、くどうれいんさんの『日記の練習』をおすすめしよう。
くどうれいんさん。俳句、短歌、エッセイ、絵本、小説...実に、幅広いジャンルで活躍中の作家である。そのくどうさんが、初の日記本を出した。23年4月から、24年3月の一年分。日々のことを書いた日記を「日記の練習」とし、それをもとにしたエッセイを「日記の本番」として、まとめられている。10代のブログブームの頃から日記を書いているというくどうれいんさん。そう考えると、くどうさんの幅広いジャンルでの活躍の原点といえるのが日記かもしれない。日記を読んでいくと、繊細で、感情の起伏が結構ある方なのね...と思う。繊細ゆえに、敏感に感じとるからなのか、普通なら見逃しそうな出来事をとらえ、その描写が面白かったり、新鮮である。実際、日記からヒントを得て、作品になることもあると聞き、納得。本当、言葉のチョイス、センスが違うんだなぁ。この『日記の練習』を書いていた一年は、くどうさんが、本格的に作家活動をされた年であり、時々、深刻そうな日記もある。でも、くどう式では、読み返した後に、面白いと思いたいから、ある意味、編集されたものだという。編集されたものでも、かなり深刻そうなのに、実際、どれだけ大変だったのか...と、つい思ってしまった。
ところで、皆さんは、日記を書いてますか? 私は、他人の日記読むのは大好きだけど、自分で日記は書いていない。日記って、どうしても毎日書かなきゃ! ってイメージがあるし、何をやっても三日坊主の私には無理なのだ。しかし、くどうさん曰く、毎日書かなくてもいいし、長くても短くてもいいとのこと。なんだか、自分にも出来そうな気がする。
「マイブック」について、調べていた時、X(旧Twitter)に、マイブックで、くどうれいんさんのように日記を書きたいとポストしていた人がいた。くどうれいんさんは、アナログ式での日記は書かれたことがないようであるが、日記の書き方は個人の自由。くどうれいんさんのような日記を書きたいと言っていたポストの主が楽しい日記ライフを送っているといいな。
帯にもあるが、「おもしろいから書くのではない、書いているからどんどんおもしろいことがふえる」という。そういうものなのか! あなたも日記をはじめませんか?
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- 精文館書店豊明店 近藤綾子
- 本に囲まれる仕事がしたくて書店勤務。野球好きの阪神ファン。将棋は指すことは出来ないが、観る将&読む将。高校生になった息子のために、ほぼ毎日お弁当を作り、モチベ維持のために、Xに投稿の日々。一日の終わりにビールが欠かせないビール党。現在、学童保育の仕事とダブルワークのため、趣味の書店巡りが出来ないのが悩みのタネ。