『臨床のスピカ』前川ほまれ
●今回の書評担当者●ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
動物介在療法というのを、あなたは知っていますか?
動物介在療法(AAT)とは、動物の存在や動物との関わりから生じる人への有益な作用を、医療者が人の治療に活用するものだそうです。
ニュースで見て、少し知っている程度だった。
犬を飼っているので、何かあった時、傍に寄り添っていてくれるだけで、助けになるか、その気持はよく分かる。
数々の患者とのエピソードが綴られていく。
掘り下げられそうな所を短く紡いでいく。
その合間に過去のエピソードが描かれる。
私も手術、入院したことがあるので、しんどさや虚脱感は共感できる。
何も喋らない、ただ傍に寄り添ってくれる、スピカのその温もりが、患者や取り巻く人々の心を解いていくのだろう。それは、患者だけにとどまらない。
後半に向けて語られる2人のエピソードが辛く、読むペースが落ちてしまった。病気、過去の記憶と向き合いながら、前向きに生きていく姿には、やはりスピカの存在が大きかったと、 あらためておもう。
作者も、現役の看護師なので、リアリティがすごい。
入院を経験した身だと、より医療従事者の方には、頭が下がる。本当にたいへんな職業だと思う。
その人達を、患者達を、助ける動物介在療法を実現させる為には人々の理解、費用、設備など、様々なハードルがあると思う。
希望あふれる美しいラストシーンだった。
スピカの笑顔が思い浮かべられるような。
ここで描かれるのが、日常のシーンになる未来を思い浮かべたい。
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- 『海を破る者』今村翔吾 (2024年6月27日更新)
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- ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
- 高知県生まれ、大阪在住。他書店から、2020年よりふたば書房入社。好物は、歴史時代小説、ミステリですが、ジャンルは、問いません。おすすめありましたらお願いいたします。好きな作家さんは池波正太郎先生。