『またうど』村木嵐
●今回の書評担当者●ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
田沼意次
皆さんは、どんなイメージをお持ちですか。
私は、池波正太郎さんの「剣客商売」の清濁併せ呑む政治家のイメージです。
第12回日本歴史時代作家協会賞作品賞、第13回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞、第170回直木賞候補にもなった『まいまいつぶろ』、描ききれなかったエピソード集を集めた『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』それに連なる作品が、本書『またうど』です。
まいまいつぶろでも、鮮烈だった田沼意次が、満を持しての主人公での登場です。
この3冊は、それぞれ単独としても楽しめますが、3部作と言っても過言ではないので、出来れば、発表順に読んでほしいです。
家重=忠光、家治=意次のこの主従が、互いを思い合っているのが、すごく伝わってきます。
公共事業が、自分の代だけでなく、日の本の10年20年、50年先を見越して、次の世代に繋げるために、一歩一歩進んでいくこと。困難にぶち当たっても、理想のゴールに向かうために、別のアプローチから、そこを目指す。
但し、そればはじめの一歩があったからできたことではないか。
長期的な展望で日の本の国、経済をまわすために、奮闘する政治家の顔が見えてきます。
それが、決して義務感ではなく、楽しんでしているところが、凄い所で、好奇心溢れる人物像で描かれます。
歴史にIFはないですが、この事業が成功していれば、その後の幕府、明治維新も違う形になったなのだろうかと夢想してしまいます。
次世代の夢の架け橋になるはずだった意知の悲劇の第五章、先を見据えた事業が外戚や新老中により中止になっていく第六章。
ラストに向けて、読むのが辛かった。
それでも、一里を信じて、悔いがないと言い切る意次に、これが私欲がない政治家の姿なのかと感慨深く読了しました。
家重から贈られた、そなたはまたうどである言葉に支えられ、やり抜いた意次。
夢見た形は違えども、その一里は、間違いなく私達に繋がっている。
- 『臨床のスピカ』前川ほまれ (2024年8月22日更新)
- 『ほたるいしマジカルランド』寺地はるな (2024年7月25日更新)
- 『海を破る者』今村翔吾 (2024年6月27日更新)
- ふたば書房京都駅八条口店 宮田修
- 高知県生まれ、大阪在住。他書店から、2020年よりふたば書房入社。好物は、歴史時代小説、ミステリですが、ジャンルは、問いません。おすすめありましたらお願いいたします。好きな作家さんは池波正太郎先生。