『さむわんへるつ』ヤマノエイ
●今回の書評担当者●駿河屋 名古屋栄店 中川皐貴
深夜ラジオに救われたことがある。大学受験のとき。
あの一年は、今振り返ってみても人生で最もしんどい時期だったと思う。問題集を解いて解いて解いて、全部埋めたらそのノートをビリビリに破って、紙吹雪のようにして部屋に降らせていた。それを眺めてきれいだなんて思ったりして、思いっきり限界だった。
受験の時期は学校、家、塾とすべての場所で勉強に追われていた。そんななか、深夜に流れるくだらなくて面白くて、でもそのくだらないなかに切実さがあったりもして、なんてそんな深夜ラジオは逃げ場だった。いま思えば、サードプレイスのような役割も果たしていたんだろう。
深夜ラジオにはどんなくだらない悩みだろうが全部拾ってくれるような安心感があった。聴いているのはこちら側なのに、全力でこちらの話を聴いてくれているような、そんな気持ちにもなってくるものだった。
今回紹介する『さむわんへるつ』は、深夜ラジオが好きな2人の高校生の話。
生徒会長で文武両道、けれど好きな深夜ラジオの大喜利には投稿すれども採用されないミメイくんと、有名ハガキ職人の「うなぎポテト」こと水尾さんによる青春ラジオラブコメディ。
二人の軽快でテンポの良いやりとりは、それこそが深夜ラジオのようで、読んでいるこちらをフフッと笑わせてくる。カラオケに行ったり、お揃いのラジオを買ったりと、青春の甘酸っぱさもあって面映ゆい気持ちにもなる。
そしてこの漫画の本当に良いところ、というか個人的に大好きなところは、水尾さんの小気味よいボケの数々はもちろん、それを全部拾って(ツッコんで)くれるミメイくんの存在にあると思う。
こちらの話を全部ちゃんと聴いてくれて、全力で打ち返してくれるということの喜び。そしてそもそも、こちらが投げる話が通じていることの楽しさといったら他にたとえようがない。相手も同じようなものを見て、聞いて、経験していて、その時に同じようなことを感じたからこそ通じ合える。そんなのもう運命じゃん、とすら思えてくる。
......とここまで書いていて、自分はなぜこんなにも話が通じることの喜び、楽しさを懐かしんでいるのかと思ったらそれは兄の存在だった。見ているドラマも漫画も全部一緒だった兄と私は、それこそ以心伝心の仲だったと思う。
私が受験生のときも、兄は大学でひとり暮らしをしていたにも関わらず、センター試験(現・大学入学共通テスト)の一週間前や当日にはわざわざ勉強のアドバイスやリラックスさせてくれるような他愛のない話をしてくれて、それがとても嬉しかったのを今でも憶えている。
誰かが見ていてくれている、聞いてくれているということ、言葉が通じるということはただそれだけで救いになる。何気ない一言がとても嬉しかったりする。
そんな深夜ラジオみたいな漫画『さむわんへるつ』、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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- 駿河屋 名古屋栄店 中川皐貴
- 滋賀県生まれ。2019年に丸善ジュンク堂書店に入社。文芸文庫担当。コミックから小説、エッセイにノンフィクションまで関心の赴くまま、浅く広く読みます。最近の嬉しかったことは『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬と母校(中学校)が同じだったこと。書名と著者名はすぐ覚えられるのに、人の顔と名前がすぐには覚えられないのが悩みです。

