『グググのぐっとくる題名』ブルボン小林
●今回の書評担当者●青山ブックセンター本店 高橋豪太
まず目を引くのはなんといっても「グググ」である。濁音のついたカタカナ三枚重ねの、そのパワフルさたるや。文字列自体にイメージがこびりついているような強さが感じられる。たとえば「ドドド」ならなにやら大挙して駆け抜けていく勢いがあるし、「ズズズ」は深淵から得体の知れないものが忍び寄るような印象がある。そしてなにより「ゲゲゲ」といえば......だ。そんな頭三文字の勢いを落とすまいと「グググのぐ」と続く。一拍おいて、また戻る。ゲゲゲのゲ、レレレのレ。つい口にしたくなる言葉のリズムは、いつの時代だって変わらない。「グググのぐっ」と後ろにはみ出るのも気持ちのいいポイントだろう。
気持ちよさでいえば、この本の著者名もなかなかなものだ。ブルボン小林。濁音の効き具合がすごい。一拍目と三拍目で「ブ、ボ、」とアクセントを効かせてリズムを作りつつ、五拍目をあえて抜いて裏からやってくる「ば」。ブル、ボン、こばやし。ダン、ダン、ズッダンダン。なんと心地のよいうねりだろう。そんな名前を引っ提げて、あらためて書名に戻ってみよう。ぜひラジオのタイトルコールのノリで、実際に声に出して言ってもらいたい。「ブルボン小林の、グググのぐっとくる題名〜〜!」どうだろう、気持ちよすぎないか?
添えられた副題「なぜこの題名に惹かれるのか」も、説明的でありながらくどさがなくていい。ひと息で吸い込めるサイズで、この本が何を目指しているのかが伝わってくる。「なぜ〜のか」という問いをそのまま看板に持ってくるのは『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』や『なぜ人は締め切りを守れないのか』など近年のヒット作にもよく見られる手法だ。このフォーマットの本質は、問いの顔をすることでひとつの答えを押し通しているところにある。問いの前提条件を、疑いようのない事実として受け手に認めさせるのだ。働いていれば当然本は読めなくなるし、締め切りなんて守れなくて当たり前。そう思わせるのと同じように、惹かれる題名が、ぐっとくる題名がこの世界にたしかに存在するということを宣言しているのがこの副題というわけだ。くう!
──とまあこんな具合に、作品の内容には触れずにその題名だけにフォーカスして考察を広げていくのがこの『グググのぐっとくる題名』という題名の本なのであった。ぐるっと周って自己言及的な、ウロボロスみたいなタイトル。上記、お恥ずかしながら本書の真似事みたいなことをしてしまったが、こんなものよりもっと面白い考察が繰り広げられているので安心してお手に取っていただきたい。あまりに語感が良すぎる『パッキパキ北京』の音楽っぽさとか、「8番出口」が「8番」でなければならなかった理由とか、ドラえもんの主題歌に「ドラえもん」と名付けてしまう星野源の凄みとか......ジャンル関係なく繰り広げられる題名談義は、酒のおともにぴったりの愉快さだ。
「名前」ではなく「題名」である。そこには必ず、作者の思惑が詰め込まれている。それを読みほぐしていく遊びのなんとたのしいことか。この世界は題名で満ちあふれているし、これからも題名の総量は増え続ける。もう一生退屈しないじゃんね。
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- 青山ブックセンター本店 高橋豪太
- 眉のつながった警官がハチャメチャやるマンガの街で育ちました。流れるままにぼんやりと生きていたら、気づけば書店員に。二軒のチェーン書店を経て東京・千駄木の往来堂書店に勤めたのち、2025年10月から青山ブックセンター本店に勤務。本はだいすきだが、それよりビールの方が優先されることがままある。いや、ビールじゃなくてもなんでものみます。酔っ払うと人生の話をしがちなので、そういう本をもっと読んでいくらかましになりたいです。

