『虚弱に生きる』絶対に終電を逃さない女
●今回の書評担当者●TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかね
最近、特にこの2、3年で体力の衰えを感じることが多くなった。何かするたびにいちいち休憩を挟みたい。一度にたくさんのことを考えられない。忘れっぽい。集中力が続かず、読書のスピードが落ちた。何より視力の低下が著しくて、近くも遠くも見えない。いわゆる老化である。
もともと「いつまでも若々しくありたい」みたいな願望はあまりない方だし、見た目も体力も、年相応に自然に老いていくのが理想だと思ってはいるが、それにしても今までできていたことが急にできなくなるというのはなかなか受け入れ難く、つらいものだ。なんとかして逆らいたくなる気持ちもわかる。
普通なら半世紀ほど生きて徐々に感じるはずのこの「老化」が、20代で始まってしまったとしたらどうだろうか。「できていたことができなくなる」どころではない。そもそも「できる」のスタートラインにすら立っていないのである。本書は、そんな虚弱な身体を持った著者が、「虚弱」に向き合って、なんとか付きあいながら生き延びようとする様子を綴ったエッセイである。
何もしていないのに全身が痛い。眠れない。寝てしまうと起きられない。食後は必ず腹痛。謎の微熱や発熱。とにかく体力がない。このような慢性的不調に加えて、ありとあらゆる原因不明の不調が20代前半の著者を襲う。検査したところで病気ではないからと治療もされず薬もなく、人からは怠けている、やる気がないと思われる。日常生活もままならず、当然就職もうまくいかず、生活が行き詰まる...。
著者はこれらの不調をなんとかするべくあれこれ試し、健康に目覚め、自分なりにルーティンを作り、食生活にも気を使い、ようやく今を生き延びているわけだが、その様子をSNSに投稿したり、webメディアにとりあげられたことが大きな反響を呼んだ。思いもかけず、共感の声が多数寄せられたのである。つまり、世の中には虚弱に悩む人がたくさんいる。
「普通に健康」な私たちは当たり前すぎて気づかないけれど、この世の中は大部分の「普通に健康」な人向けにできている。一方で、「ただ生きる」というスタートラインに立つために大変な労力を必要とする人もいる。彼らにとっては恋愛も就職も結婚も子育ても、贅沢でリスキーだ。
自分向けではない世界で、自分向けではない「標準」に合わせて生きていくのは想像以上に大変だろうと思う。わたしの今の老化した体で、20代に混じって同じように生きろと言われてもとてもできない。とりあえずデフォルトの体力がなければ始めることすら難しいことが世の中にはたくさんあり、とにかく生きることを最優先してそれらを少しずつ諦めている人がいるのだと知る。
今までいろいろなことを諦めて、ただ自分の体力のなさを呪うしかなかった人たちにこの本が届いたらいいなと思う。決して虚弱を克服するための本ではないけれど、つらいのは自分だけじゃないと思うことでちょっと救われるかもしれない。
書いている内容はなかなかヘヴィーですが(特に第三章)著者が自虐も交えてライトに書いているおかげで、そんなに重たくならずに読めます。若々しくて健康で丈夫な人にも是非読んでいただきたい!
- 『おにたろかっぱ』戌井昭人 (2025年12月18日更新)
- 『痛いところから見えるもの』頭木弘樹 (2025年11月20日更新)
- 『呪文の言語学』角悠介 (2025年10月16日更新)
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- TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかね
- 愛知県岡崎市在住。2013年より現在の書店で働き始める(3社目)。担当は多岐に渡り本人も把握不可能。翻訳物が好き。日本人作家なら村上春樹、奥泉光、小川哲、乗代雄介など。きのこ、虫、鳥、クラゲ好き。血液型占い、飛行機が苦手。最近の悩みは視力が甚だしく悪いことと眠りが浅すぎること。好きな言葉die with zero。

