『エイダンをさがして』デイヴィッド・レヴィサン
●今回の書評担当者●本のあるところ ajiro 中川皐貴
子どもの頃はファンタジーの世界に行ってみたかった。ジョナサン・ストラウド『バーティミアス』やダレン・シャン『ダレン・シャン』、上橋菜穂子『獣の奏者』。ファンタジー世界に登場する神秘的な生き物たちをこの目で見てみたかったし、魔法を使い、空を飛んで、その世界を冒険することを夢見ていた。
ファンタジーのなかには、現実世界と別世界を行き来する物語もある。現実世界では考えられないようなことを別世界で経験して、目的を果たし、成長して我が家に帰る。
一般のファンタジーならば、ここでめでたしめでたし、と幕を下ろすのですが、本書の物語はここから始まる。しかも、語り手は別世界に行ったエイダンではなく、現実世界に残されていたエイダンの弟、ルーカス。
行方不明になっていた12歳のエイダンが、6日目の夜、屋根裏部屋で無事に見つかる。あらゆるところを探し、警察や周囲の人たちによる大規模な捜索もむなしく、最悪の事態も想定され始めた頃だった。
ルーカスを含め、家族はエイダンが生きていたことを喜び、安堵するが、一つの疑問が残ったままだった。エイダンは6日間、どこにいたのか?
エイダンは最初、答えようとしなかったが、家族や警察に問い詰められ、言ったって信じないと前置きをした上で、「アヴェイニュ」という別世界に行っていた、と答える。
......さてここで、もし仮に、仲の良い友だちや家族、仕事仲間といった人たちが、何日も行方不明だった後に見つかって、「別世界に行っていた」と言われたら、どんな反応をするだろうか。
自分の場合、その相手が大人なら、「冗談はそのくらいにして本当のところは?」と聞くだろうし、子どもなら事件に巻き込まれたショックからではないかと心配するだろう。
11歳のルーカスも、別世界はファンタジー小説のもので、「アヴェイニュ」は本当にはないことを知っている。それでも、別世界なんて存在しないと思いながらも、ルーカスはエイダンの話を信じる。最初はファンタジー小説の作者を信じるのと同じ意味でではあるけれど、でもそれは、その物語を信じるということで、エイダンを信じるということだ。
「信じる」はこの物語においても重要なテーマであると思う。ルーカスは、エイダンが「アヴェイニュ」でどんな体験をしたのか話を聞く。そこでは英語が通じたのか。どんな生き物がいて、どんな食事だったのか。エイダンは、「アヴェイニュ」がどんなに素敵で、不思議な世界だったのかを語る。
エイダンの経験した別世界での物語を、ルーカスは信じる。それが事実としてあったかどうかは関係なく、語られる物語はエイダンにとって大切な意味を持つものなのだと信じる。
物語は、誰かに信じられて初めて意味を持つ。子どもの頃に読んだファンタジー小説が、巡り巡って人生の岐路で思い出され、こうして本に関する仕事についた時なんかにはよく思う。
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- 本のあるところ ajiro 中川皐貴
- 滋賀県生まれ。2019年に丸善ジュンク堂書店に入社。主に文芸文庫担当。駿河屋に異動した後、2026年3月からは書肆侃侃房の営業担当兼「本のあるところ ajiro」にも勤務。 ジャンルは関心の赴くまま、浅く広く読みます。書名と著者名はすぐ覚えられるのに、人の顔と名前がすぐには覚えられないのが悩みでしたが、そうも言っていられなくなってきました。

