『百人一首バトル』栗木京子・穂村弘・佐藤弓生・千葉聡・石川美南編
●今回の書評担当者●駿河屋 名古屋栄店 中川皐貴
周囲でカードバトルが流行ったのは、私が小~中学生の頃だった。放課後、友だちと各々の家やアパートの踊り場でカードを広げて遊んでいた。あの頃は戦略も何もなく、デッキにはとにかく強いカードをたくさん入れて、勝った負けたに一喜一憂していた。
今回ご紹介する『百人一首バトル』は、5名の歌人が、原則として1900年以降に生まれた作者の歌集から秀歌を百首選び、百人一首としてまとめた1冊。 5名は、各自が設けたテーマを元に百首を選んでいる。私が子どもの頃に作っていたカードデッキとは違い、短歌同士の響き合いや、それぞれのテーマに沿ったものになるように考えられて一首一首を選ばれている。
1冊を通して読んでみて、つながりを見つけて楽しむのはもちろん、特に気になった短歌について、どういう意味だろう?と考えながら読んでみるのも面白いかもしれません。
例えば、
母はもう父には逢えぬしゃらんしゃらん私があえないよりも逢えない
江戸雪『カーディガン』
父親をなくし、私は「あえない」なのに対し、母は「逢えない」。「あう」という同じ音なのに見出せる意味が微妙に違ってくる。「逢えない」という言葉には恋愛的な意味も多分含まれていて、短歌の流れからしてもこちらの言葉の方が重みがあるように取れるのですが、個人的には普遍的な「あえない」のあえなさの方がつらく感じてしまう。それは自分が「逢えない」を知らなくて、「あえない」は知っているからかもしれない。「しゃらんしゃらん」の音の寂しさもぴったりだと思う。
廃線をいつか歩いてみたかった こんないつかじゃなかったよ楢葉
斉藤斎藤『人の道、死ぬと町』
『スタンド・バイ・ミー』じゃないけれど、廃線を歩いてみたいという気持ちは、案外誰しも抱いているのではないだろうか。「いつか」には、ノスタルジーとか、希望に満ちた明るさをたたえていたんだと思う。でも実際は、東日本大震災で津波・原発の被害を受けた町、楢葉でその「いつか」がおとずれてしまう。そんな「いつか」を望んでいたわけではないんだと、行き場のない言葉が短歌になっている。
夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった)
我妻俊樹『カメラは光ることをやめて触った』
2人には、夏の井戸にまつわる何かがあったんだろう、と思いを馳せてしまう。それまでは恐らく幸せな時間だったんだろう。でもそれが、夏の井戸で起こった出来事によって一転する。
「あまりなかった」の曖昧さと、短歌という短さによる説明のなさが逆に怖さを引き立てているように思う。
宛先も差出人もわからない叫びをひとつ預かっている
奥田亡羊『亡羊』
宛先のない叫びには自分にも覚えがあるけれど、この短歌は差出人すらわからないという。今だとSNSで流れてくる匿名の誰かの叫びとか、「みんな言ってるよ」の、誰だよと言いたくなるような、よくわからない「みんな」の叫びだろうか。
どちらにせよ、そんな叫びまで預かってしまうこの人は、なんて生きづらい人なんだろう、と思う。優しい人なんだろうとも。
平凡は人を癒すと聞いてきた もらったアイスを半分捨てる
仲田有里『マヨネーズ』
まず、「もらったアイスを半分捨てる」という行動に驚いてしまう。全部捨てるなら、嫌いな味だったとか、嫌いな人からもらったとかでわからなくないけれど、半分だけ捨て、もう半分は恐らく食べている。
平凡とは程遠い行動に、何がしたいんだろうか、と惹かれながらも、明確な答えが出せなかった。
この短歌について、別の人に感想を聞いてみると、半分だけ癒しをもらって、もう半分は緊張感なんかを捨てずに持っていたいみたいなニュアンスでは?と返ってきた。なるほどそう読むこともできるのかと思う。
小説の感想が十人十色であるように、短歌の感想も色々あって良いと思う。文字数が少ない方が解釈の幅は広がるようにも思う。
また、みなさんも、自分の考える最強の百人一首を組んでみても楽しいかもしれません。そのためにいくつも歌集を読んで、百人一首というデッキを作るためのカードを集めて、なんならテーマまで決めてみて。
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- 駿河屋 名古屋栄店 中川皐貴
- 滋賀県生まれ。2019年に丸善ジュンク堂書店に入社。文芸文庫担当。コミックから小説、エッセイにノンフィクションまで関心の赴くまま、浅く広く読みます。最近の嬉しかったことは『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬と母校(中学校)が同じだったこと。書名と著者名はすぐ覚えられるのに、人の顔と名前がすぐには覚えられないのが悩みです。

