『ふつうの人が小説家として生活していくには』津村記久子

●今回の書評担当者●TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかね

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  • 『ふつうの人が小説家として生活していくには』
    津村記久子
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書店員として働いて延べ20年近くになるが、実は人に本を勧めるのが苦手だ。
よくお客様に「なんか面白い本ない?」「最近のおすすめは?」なんて尋ねられたりするのだが、これが結構困る。まず「面白い」というのが、「私にとって面白い」なのか、「世の中で面白いとされている」なのか、「その人が面白いと思いそう」なのかがわからない。この人が求めているのはどの答えなのか?
迷ったときはだいたい「私にとって面白い」本を勧めることにしているが、その結果半分くらいの確率で「よくわからなかったわ」「ちょっと合わなかった」などと言われてしまう。
それでも私は、自分が面白いと思ったものしか自信を持っておすすめすることができないので仕方がない。
(もちろん「何が一番売れてるの?」「〇〇大賞ってどれ?」などと聞いていただければきちんとお答えします)

人に勧めるのは苦手だが、私は「自分が好きな本」を知っているし、「自分だけがその面白さを知っている本」を見つけたいといつも思っている。
「自分だけが知っている」にたどり着くためには、誰かの感想やコメントを見たり聞いたりする前に、自分の勘を信じて思い切って賭けに出るしかない。当然失敗(私にとっては)もあるのだが、賭けに出る数が多ければ多いほど、だんだん当たりの確率は高くなっていく。
年の功というのか、わたしもまあまあ長いこと本好きでいるので、この勘も今やかなりの精度である。新刊の箱を開けて本の表紙を見れば「これ絶対好きなやつ!」とピンとくるし、大体ハズレない。もちろん自分にしか通用しない物差しだけれど、今までわたしが大切に育ててきた宝物で、わたしそのものといってもいい。

今の時代は、何かを知りたいと思ったり、何かを手に入れたいと思ったり、どこかへ辿り着きたいと思ったら、最短のルートが用意されている。無駄なことはなるべくやらないで済むし、すぐに正解に辿り着ける。失敗したり、傷ついたり、遠回りしないで済む分、予想外の誰かや何かに出会うチャンスはあまりない。

それは、もしかしてすごくつまらないんじゃないか。コスパもタイパもよいけれど、何かとても豊かなものを逃しているような気がする。楽な人生より面白い人生のほうが、ずっと幸せなのではないか。

私は津村記久子さんの小説が大好きなのだが、それは津村さんが「自分の好きなもの」を知っていて、「自分の好きなもの」の見つけ方を知っている人だからなのかもしれないなあとこの本を読んで思う。誰かにお膳立てされた「良いもの」に満足しないで、たくさん賭けをして自分の好きを組み立てた人で、自分が面白いと思うものを書こうと思って書いてきた人だから、きっとまっすぐに受け取れるのだ。

「ケチはだめですね。ケチはつまらんと思います。世の中でウケてるかウケてないかとか、他人がどう思ってるかとか、どれだけ自分の気持ちを接待してくれそうかでコンテンツを選ぶ人っていうのは絶対につまらん。つまらんし、そんな人が自分の人生つまらんって言っててもなんも同情しいひん。それは感情的にケチやからやろって思う。」

よし、これからも私は、ケチケチしないで冒険しよう、いっぱい無駄なことしようと思う。

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TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかね
TSUTAYAウイングタウン岡崎店 中嶋あかね
愛知県岡崎市在住。2013年より現在の書店で働き始める(3社目)。担当は多岐に渡り本人も把握不可能。翻訳物が好き。日本人作家なら村上春樹、奥泉光、小川哲、乗代雄介など。きのこ、虫、鳥、クラゲ好き。血液型占い、飛行機が苦手。最近の悩みは視力が甚だしく悪いことと眠りが浅すぎること。好きな言葉die with zero。