『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子

●今回の書評担当者●BUNKITSU TOKYO 成生隆倫

  • 出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと (河出文庫)
  • 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと (河出文庫)』
    花田菜々子
    河出書房新社
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わかってる。
この作品が、俺をそこそこ名の知れた書店員にしてくれたことくらい。

自分の名が売れるのはもちろん、自分のルーツとなった本が売れるのはとてつもなく嬉しい。本書の帯を書いたことだって誇らしいし、重版の一助になれたことも、書店員としての自信に繋がっている。

ありがたいことだ。
ありがたいことだけど。
正直、この作品に乗っかり続けるのは、何か違う気がしている。

『この本に出会っていなければ、俺は書店員になっていなかった。目的も夢もあやふやだった日々を変えてくれた運命の一冊。』
と、いくら帯でドヤっても、あくまでこれは花田菜々子さんの物語だ。俺の話じゃない。
「本屋に並んでるの見たよ!」とか「成生さん、買いました!」とか様々なメッセージを頂くこともある。
ありがたいことだ。
ありがたいことだけど。
やっぱり、心にかかった靄は晴れない。

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』に出会ったのは2021年。インスタグラムで紹介する本を探すため、ブックオフをうろうろしていたある日のことだった。
当時、心理学系ユーチューバーだった俺は、顔を売るためにインスタグラムで自撮り画像をアップしていた。もちろんただの自撮りでは競合との差をつけられない。そこで俺は、本を持ちながら自分の顔をさらすことにした。
本というツールを選んだのは、種類が多くてネタが尽きなそうだから。それだけだった。
ゆえに、本書との出会いは決してドラマティックなものではない。
「なんとなく映えそう!」そんな軽い気持ちで手に取っただけに過ぎなかった。

しかし、これは天啓だった。

コロナ禍でバイト先の飲食店をクビになり、塾講師のバイトで食いつないでいる。ユーチューバー活動は軌道に乗る兆しを見せず、モチベーションは日に日に低下している。夜な夜な街へ繰り出して、現実から逃れるように酒に溺れまくっている。
そんな人間に刺さらないはずがない本だったのだ。

俺も書店員になれば人生を変えられるかも...。
知識も経験もない。本が好きで好きでたまらないわけでもない。しかし、本書のようなサクセスストーリーへの憧れは止まらなかった。

読了後、すぐに行動を開始した。
「ここで働かせてください」
俺は著者の花田さんが店長を務めていた本屋、HIBIYA COTTAGEに赴き雇用を申し出た。花田さんは曖昧な笑みを浮かべると、やんわりと、しかしきっぱりと俺の直談判を躱した。
まあ、そりゃそうである。突如現れた得体のしれないロン毛――肩まで髪を伸ばしていた――を、はいよろしくと即刻採用するわけがないのである。(実は閉店が決まっていたという事情もあった)

それでも、書店員になって人生を変えるという目標は健在だった。
むしろ別の本屋で成り上がって、胸を張った状態で花田さんに再会してやろうと思った。

結果、それは叶った。

本書の帯を書いたり、その他数多の拡材にコメントを寄稿したり、SNSで存在感を示しながら、俺は【書店員・成生隆倫】という立場を獲得することに成功した。
記録的な売上を叩き出すなど、版元さんや作家さんたちの信頼も勝ち取ってきた。勤務先で行った宮島未奈さんとの対談イベントも、大盛況を博すことができた。

「花田さん、俺、結構いい感じだぜ」
途中何度か挫折があったけれど、最近はいい報告ができている。
尊敬しつつも、憧れすぎない。自分は自分なりの成果を出していると自負している。

...だからこそなのだ。
自分の力で道を切り開き始めたからこそ、もういい加減『であすすの帯の人』という恩恵にあやかっているばかりではいけないと思うのだ。

率直に言う。
俺も、誰かの兆しになるような本を出したい。

決して第二の花田菜々子になろうとしているわけじゃない。
ただ単に、かつての俺みたく未来が見えなくて、漠然と日常をあがいている人のきっかけになりたいのだ。
成生オリジナルの文章で、成生の景色を一転させた本というツールで、誰かの人生に光をもたらしてみたいのだ。

5年前なら間違いなく無理だった。
でも今は違う。
優しさや厳しさに打ちのめされ、全身全霊で書店員という仕事に向き合ってきた俺は最強なのだ。
なんだって実現できる。
してみせる。

『この本に出会っていなければ、自分は○○になっていなかった』と誰かが言ってくれる日は、決して夢なんかじゃない。

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BUNKITSU TOKYO 成生隆倫
BUNKITSU TOKYO 成生隆倫
立命館大学卒業後、音楽の道を志すが挫折。その後、舞台俳優やユーチューバーとして活動するも再び挫折し、コロナ渦により飲食店店員の職も失う。塾講師のバイトで繋いでいたところ、花田菜々子さんの著書と出会い一念発起。書店員へ転向。現在は書店勤務の傍らゴールデン街のバーに立ち、役者業も再開している。座右の銘は「理想はたったひとつじゃない」。