『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁

●今回の書評担当者●丸善博多店 脊戸真由美

  • 本にだって雄と雌があります (新潮文庫)
  • 『本にだって雄と雌があります (新潮文庫)』
    小田 雅久仁
    新潮社
    788円(税込)
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あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。毛ほども心あたりのない本が何喰わぬ顔で書架に収まっているのを目に止めて、はてなと小首を傾げるのはままあることだが、あながち斑惚けしたおつむがそれを買いこんだ記憶をそっくり喪失してしまったせいばかりとは言えず、実際そういった大人の事情もおおきに手伝っているのだ。


 常より、私もそう思っていました。我が店の本です。

 さて、だいぶ老眼が進んできました私め、担当しておりますのは文庫新書、背表紙に書いてある番号の数字が、だいぶもう、いけません。
 日によってコンディションもあるのですが、(店内に霧でもでるのだろうか)6と9があやしい。
 さらに、番号が白抜きだったりすると、殺意すら覚えます。

 文庫は、作家別に背表紙が色分けしてあったり、作品順がだいたい頭に入っておりますゆえ、気持ちは鍼灸師。ふわっと半眼で、棚の全体図を見たのち、ココや!グイと押し込む。
 問題は新書で、背表紙はつるつるのっぺり、ぜんぶ同じ色。刊行順の整理番号で並べるので、同じ著者なのに、上と下とで泣き別れ。

 店員も老眼なら、熱心な新書購買層もだいぶ老眼。どちらもよく見えてないまま、出しちゃあ押し込む。
 ココ?か、むぎゅ。すでに狂ってる並びに次を。
 ハイ、ジャンジャンバリバリ!地獄ゲームのはじまりです。探しに来たひとは見つかりません。

 まずは冷静に、上から下へ棚をなぞる。え、いませんね。じゃあ、次はおしりから逆に。
 そうするとなぜか見つかります。本が瞬間移動したとしか考えられません。つかまえた。

 毎夜、消灯した無人の店内では、蝶のように本が羽ばたいているはず。叶うならば、いまわのきわに、いちど、この目で見てみたい。

 老眼店員、お客さんの老眼との共演。移動する本によって、売り場は日々入れ替わっているのです。
 ちなみに、在庫データがちょいちょい狂うのも、あやしいと睨んでる。どこでなにをしているのやら。

 この業界、長くおりますゆえ、店をたたむ、というのも経験しております。そうしましたら、什器のありえない隙間から、いくつも本が出てくる。キミ、どっから入ったん?とっくに休刊したサーファーファッション誌だったりします。こんな時代もあったよね。

 撤収作業の悲しさも、ちょっと忘れるひととき。みつけた。

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丸善博多店 脊戸真由美
丸善博多店 脊戸真由美
この博多の片隅に。文庫・新書売り場を耕し続けてウン十年。「ザ・本屋のオバチャーン」ストロングスタイル。最近の出来事は、店がオープン以来初の大リニューアル。そんな時に山で滑って足首骨折。一カ月後復帰したら、店内全部のレイアウトが変わっていて、異世界に転生した気持ちがわかったこと。休日は、コミさん(田中小実昌)のように、行き先を決めずにバスに乗り山か海へ。(福岡はすこし乗るとどちらかに着くのです)小銭レベルの冒険家。