『控えよ小十郎』佐藤巖太郎

●今回の書評担当者●BOOK’NBOOTH 中村優子

  • 控えよ小十郎
  • 『控えよ小十郎』
    佐藤 巖太郎
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大河ドラマ「独眼竜政宗(以下「独眼竜」という」は、私の大河デビュー作。厳密にはそれ以前から両親と一緒に時折大河ドラマを観てはいたのだが、きまぐれで観ていただけで確固とした自主性はなかった。「独眼竜」のおかげで渡辺謙演じる政宗は私のヒーローであり、私の武将像は政宗(渡辺謙)となった。

あれは何年頃の作品だったかと「独眼竜」の年を調べてみると、1987 年に放映されていた。もう40 年ほど前になるのか、と感慨深さより月日の流れに唖然とさせられたが、「独眼竜」から歴史の世界にどっぷり浸ることになった私は、それ以降、伊達政宗、片倉小十郎などの有名人から、伊達成実、⿁庭左月斎などという歴史小説好きでなければ誰それ?というような家臣の名前を記憶にとどめることが面白くなり、すでに変人としての片鱗が見えてきたりもしていた。

伊達政宗は多くの歴史小説に登場するが、作家さんの伊達政宗像などにより描かれ方が何通りもあり、大変面白い。特に、父親輝宗最後の時や、秀吉との2度の釈明のための対面、関ヶ原の戦いの際の100 万石のお墨付きなど、政宗の一生には多くの名場面がある。良い政宗、悪い政宗、嵌められた政宗、仕掛けた政宗、どの政宗も本当もあり嘘もあるだろうが、これだけ評価がわかれるのも政宗ならでは。例えば同時代の隣国の武将蒲生氏郷や相馬義胤などは、どの作家さんが描いても、ある程度同じような人物像になっている。政宗は江戸時代になってからも多くの逸話を残しており、仙台藩という大藩であったため古文書や〇〇記などの記録文章も多く、また1636 年に亡くなる直前まで家光のそばに侍り、戦国から大坂の陣での戦話などを披露していた。もしかするとその際に事実と異なる発言などもあったかもしれない。

佐藤巖太郎は、デビュー作『会津執権の栄誉』でいきなり直木賞候補となった作家さんで、当時の文藝春秋担当者のイチオシと言われて発売早々に読ませてもらった。伊達の敵、蘆名家の家老金上盛備を主人公とした作品で、これまで読んだことがなかった蘆名側からの伊達家は読みごたえ充分。東北地方の戦国時代は、他の地方と違い敵と味方がわかりにくい。婚姻を結ぶことで幾重にも親戚関係になっているにもかかわらず、すぐに敵になり、すぐに和睦する。徹底的に破滅させず、力を削いで弱体化させる程度に生かす。そんな仕組みもしっかり教えてくれた。その後も『伊達女』『筆と槍』などで伊達家を描いていたが、本書『控えよ小十郎』で、世に名高い政宗の懐刀・片倉小十郎景綱を主人公とした作品を発表した。2 年前に刊行されていたのだがなぜか私の目をすり抜けており、先日『筆と槍』を読了した後の著者略歴に『控えよ小十郎』という書名を見てびっくり。いつのまにそんな面白そうな小説を発表していたのだ!とすぐに注文。政宗ほどではないが、小十郎を描いた作品も多い中、佐藤版小十郎を読めるとドキドキワクワクしながらページをめくった。小十郎が巷で言われているほど政宗の懐刀ではなく、政宗の行動を全て把握していたわけではない、が、要所要所で政宗は小十郎の策をしっかり遂行し、信頼は絶大であったことをとてもうまく表現してくれていた。政宗ほどの傑物であれば、小十郎の役割はこうでなければ、とストンと落ち、私の小十郎像はこれで決まった。

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BOOK’NBOOTH 中村優子
BOOK’NBOOTH 中村優子
大阪府八尾市在住。BOOK’NBOOTH を2025 年8月に大阪市阿倍野区にて開業。主に小説を扱い、町の本屋を目指すために雑誌や児童書、コミックや実用書も取りそろえている。どんな小説も大好きだけど、特に歴史ものには目がない。本業は社労士で、書店店舗は元書店員仲間2名が担ってくれている。休みの日は電車オタクの息子との冒険を楽しんでいるが、実は電車の中で本を読むことが最大の目的だと息子は知らない。