『盆の国』スケラッコ

●今回の書評担当者●本屋 亜笠不文律 アガサジューン

  • 盆の国 (torch comics)
  • 『盆の国 (torch comics)』
    スケラッコ
    リイド社
    693円(税込)
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舞台は京都、8月15日。お盆はご先祖さまたちが帰ってきて、町中が賑やかだ。故人の姿が見える女の子・秋は、中学最後の夏休み、亡くなった祖父や飼っていた猫との再会を喜ぶ。しかし、明日は恒例行事、送り火の日。送り火とともにお盆は終わり、祖父も猫も、誰かの大事な人たちはみんな常世へと戻ってしまう。あまりにも短い、楽しい時間。それに、秋は学校の友達とケンカして、送り火を一緒に見に行こうと誘う勇気も出ないまま。「もうずっとお盆のままならええのに」、投げやりにもそう思った翌日、そこは翌日ではなかった。「次の日も その次の日も その次の次の日も 日付は15日のままだった」──。

もう面白い。冒頭から、エンドレスお盆ファンタジックミステリSFアドベンチャーの始まり始まり。「もしこれから何かおかしいことあっても 心配せんでええから」、そう言ってピンチを助けてくれた謎の青年・夏夫(常に着物姿)と共に、秋は何度もお盆を繰り返す。町から物理的に距離を取ってループの仕組みを探ったり、故人たちと会話を重ね現状の理解を深めたり。けれど、事態は収束どころか悪化する。8月15日を重ねるたび、町に溢れるご先祖さまたちの数が増えていく。静かな存在だったはずの彼らの、肉声がはっきりと聞こえるようになる。「力が強くなってる」、「死んだ人と生きた人 どんどん曖昧になっていく」。このままではいけない、死者との再会を楽しんでいた秋は、元の世界へ戻りたい気持ちを明確に抱き始める。摩訶不思議現象を引き起こしているのは誰、あるいは何なのか。秋と夏夫、ふたりの大冒険は、クライマックスへと駆け抜ける。

お盆という日本独自の習俗を土台に、巻き起こる壮大な謎解き。生と死の気配が物語に通底している中で、思春期ならではの友情のいざこざも、淡い恋のような手触りも散りばめられている。これほどてんこもりな題材を、バランスよく編みあげるストーリーテリングに脱帽。刊行当時、著者は長編では初作品だったというのだから、すべてが見事、見事である。また、絵柄はシンプルかつキュートでやわらかい雰囲気をまとっているが、死者の内面を描く時、ぞわりと鳥肌が立つ畏怖を差し向けてきたりする。その緩急の鋭さたるや、とんでもない表現力。後半のスペクタクル大バトルも、迫力満点で手に汗握る攻防。1冊で、こんなに楽しめていいのか。こんなに面白くていいのか。すごい。余すところなくすごい。

永遠に終わらないかと思われた8月15日は、大冒険のあるべき結末として終わりを告げる。ひと夏の青春は、往々にして切なさと成長を連れてくる。四季が巡り、盆を迎えるたび、この物語を思い出す。刊行からちょうど10年の今年も、私は『盆の国』に浸るだろう。永遠に色褪せない8月15日。

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本屋 亜笠不文律 アガサジューン
本屋 亜笠不文律 アガサジューン
2025年、大阪市阿倍野区にて総合新刊書店を開業。喫茶席もあり古本も扱いイベントも行う。需要に応えつつ発見に満ちた品揃えを維持し、まちの本屋が持ち得る機能を多々備えた場所に。……ユーモア溢るる自己紹介を述べたいのに、クソ真面目宣伝と化している。書店チェーン雇用下で人生を全うするはずが、ミラクル大回転を経て経営者に。融資返済と業務過多に追い立てられるも、驚くほどに本が売れるさまは、全ての憂いをぶっ飛ばす効を持つ。書店減少、抗って参りましょう。