『多類婚姻譚』凪良ゆう
●今回の書評担当者●宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみ
読み終えた瞬間、まず思ったのは「面白かった!」という一言だった。そして、この作品について誰かと語り合いたくなった。「私はこの登場人物の考えに共感した」「いや、この人の気持ちもわかる」と、きっと読む人によって受け止め方は違うはずだ。だからこそ、感想を伝え合いたくなる作品だった。
『多類婚姻譚』は「結婚」をテーマにしながら、ジェンダーやハラスメント、多様な価値観など、今の社会を生きる人たちの悩みや葛藤を描いた連作短編集である。女性だけではなく、男性側の理不尽な扱いや苦しさ、不満もしっかりと描かれており、「女性対男性」という単純な構図では終わらない。それぞれの立場だからこそ抱える生きづらさがあり、誰か一人が正しいとも間違っているとも言い切れない。その描き方に、作品の誠実さを感じた。
特に心に残ったのは、付き合っている彼との関係に悩む花織の「そもそもわたしは結婚したいんじゃないんだろうな。」という言葉だった。読んでいるうちに、自分の娘たちのことが思い浮かんだ。誰かと支え合って生きていきたいと思っても、その形として結婚が当たり前のようにあることへの息苦しさ。その言葉は、今の社会が抱える課題を静かに映し出しているように感じた。
また、ハラスメントを巡る律と朱里のやり取りも鮮烈だ。宥めるつもりで「そんな男ばかりじゃないよ」と口にした律に対し、朱里はこう返す。
「そんなひどい男ばかりじゃないよって、なんで律がわたしに言えるの?」このセリフに、長年胸につかえていたものがすっと落ちる感覚がした。理不尽な体験を訴えたとき、返ってくる「みんながそうじゃない」という無難な言葉。そこに感じていた違和感の正体を、この作品は見事に言葉にしてくれたのだ。
律の幼馴染・陽菜が放つ「あの人たちって無意識なの。無意識だから悪意もないし、訴えてもなにが悪いのかわからない。」という言葉にも深く頷いた。無自覚ゆえの傷つけ合いの恐ろしさに頷くと同時に、「自分自身も無意識に誰かを加害していないか」という刃が自分に向けられる。
本作は、今まさに社会で向き合い続けているテーマを切り取りながら、誰かを悪者にしたり、一つの答えを示したりする作品ではない。それぞれの立場に寄り添い、「あなたはどう思う?」と問いかけてくるような物語だった。だからこそ、読み終えたあとも考え続けたくなる。そして、自分とは違う考えを持つ人とも、この作品について語り合ってみたいと思える一冊だった。
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- 宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみ
- 書店員13年目。気付けばミステリーばかり読んでいます。伏線を探すつもりが、だいたい作者にいいように騙される。それでもやめられないのがミステリーの魅力。横溝正史、綾辻行人、有栖川有栖、京極夏彦、町田そのこ、青山美智子、澤村伊智、芦花公園、もっともっと好きな作家さんたくさんです。推しは 谷山紀章 、GRANRODEO SnowMan 。

