『父ではありませんが』武田砂鉄
●今回の書評担当者●BOOK’NBOOTH 中村優子
もうかなり以前、おそらく中学生の頃から、女子との会話は難しい、と感じていた。
中学・高校では、小さなうわさ話やドラマやお笑い芸人の話、恋の話にファッションの話があちらこちらで盛り上がっていた。どんな話にもある程度は合わせていたが、面白いと感じることが少なかった。じゃあ何を話したかったと言われるとはっきりとは言えないのだが、おそらくその時世界で起こってたことや本に書かれていた内容、これから自分たちはどう生きていくのか、どのような現実が待ち受けているのか、などを例え意見が合わなくても、自分の外側で起こっていることとそれに連なる我々のことについて話す、ということをしてみたかったんだと思う。中高生時代にそんな話をしたい、もしくはしてもいいと思ってくれる人は少ないことはわかっていた。
大学生になると、趣味や興味、政治や経済、日本や世界の動向について話せる仲間ができた。そのような話ができることが本当に嬉しく新鮮で、意見の相違や価値観のぶつかり合いがあっても、そのこともまた自分の糧となり知識となることを肌で感じ、充実した日々を送ることができた。
それでもどうしても伝えきれない思いがあった。なぜ私は世の中の声に違和感を持ち続けているんだろう。なぜ周囲の女性との会話や思考がかみ合わないんだろう。なぜ日本の仕組みは全て男性が作っているんだろう...。
「あの人のあの意見はどう思う」「なぜあの人はあのような言動をするのか」について仲間たちと喧々諤々もしたのだが、その根底にある日々の違和感はなんなのか。当時、この微妙な感情を表現する言葉を持たなかった。
ある日、武田砂鉄さんの書籍と出会った。『マチズモを削り取れ』。それまで、武田砂鉄さんのことを知る機会がなかったのだが(すいません)、マチズモ=男性優位社会という言葉に惹かれて手に取った。読み始めた瞬間、あまりの衝撃によろめいた。そうなのだ、私はこういうことを言いたかったのだ、こういう体験を理不尽だと感じてきたのだ!自分の思いを言葉で表現してもらえた感動や、これまで感じてきた違和感が間違いではなかったという肯定感、また社会に対する怒りの再燃や自分の無知や無関心に対する反省が、一気に洪水のように押し寄せてきた。「世間」という空気を作っていたのは、男女をわけて識別している男性であり女性であったのだ。あの日から、私の世間への対し方が変わった。
『父ではありませんが』(集英社文庫)は、40歳まで独身、41歳で子どもを産むまで「母ではありませんが」であった私にとって、これでもか、というくらい心に突き刺さり首がもげそうなほど頷くことになった本である。
武田さんが主に伝えているのは、結婚してるのに子どもがいない人に対する世間の対応や言動である。子どもがいないことが、普通ではないことと思われる。子どもがいない人に対する過剰な配慮。家族とは子どもがいるものという決めつけ。いわゆる結婚せずに子どもがいないという、武田さんの立ち位置よりさらに低い階層にいると言われていた私が、何を世間に問いたかったのか。
「なぜほっといてくれないんだ」
そうなのだ、ほっておいてほしいのだ。勝手に独身である理由を詮索したり、母になれないことを可哀そうだと思ったり、仕事がどれだけできるのかを強調することで既婚者とのバランスをとろうとしたりしないでほしいのだ。
そんな心の叫びがはっきりと言葉になった。そうだ、私はほっておいてほしかったんだ!
数年後、数十年後、このような見え方が当たり前になることを夢見て、今日も武田砂鉄作品を売り続ける
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- BOOK’NBOOTH 中村優子
- 大阪府八尾市在住。BOOK’NBOOTH を2025 年8月に大阪市阿倍野区にて開業。主に小説を扱い、町の本屋を目指すために雑誌や児童書、コミックや実用書も取りそろえている。どんな小説も大好きだけど、特に歴史ものには目がない。本業は社労士で、書店店舗は元書店員仲間2名が担ってくれている。休みの日は電車オタクの息子との冒険を楽しんでいるが、実は電車の中で本を読むことが最大の目的だと息子は知らない。


