『成瀬は都を駆け抜ける』宮島未奈
●今回の書評担当者●BUNKITSU TOKYO 成生隆倫
書店の入口やメイン通路に面するエンドという場所は、いわば売り場の一等地である。
雑誌エリアであれば、週刊誌や美容誌が置かれているのが一般的な陳列だろう。
だが2023年3月。雑誌担当だった俺は、その常識的景観を見事にぶっ壊したのだった。
雑誌エリアのエンドに、ずらりと『成瀬は天下を取りにいく』を並べまくった書店員は、たぶん日本で俺しかいない。
推したい気持ちが溢れすぎて、当時の勤務先では禁止されていたPOP制作を強引に押し進めたのも、たぶん俺しかいない。
現在はBUNKITSU TOKYOに籍を移しているのだが、もちろん成瀬愛は変わらず大継続中である。
しかし、大好きな成瀬シリーズも『成瀬は都を駆け抜ける』をもって終わりを迎えてしまう。
最終巻という特別な存在ではあるが、それ以前に本書は、俺にとって大きな意味を持っている。
実は、成瀬と同様、俺も学生時代を京都で過ごしていたのである。京都のあの場所この場所に成瀬が赴くたび、愛車・理加マウンテン号(好きだった女の子の名前をつけた自転車)を乗り回した日々が蘇る。
まぁ俺は、鍋をつつきながら男女の理に異を唱えているような人種ではあったが──どちらかというと森見登美彦作品寄りの大学生であった──それでも憧れの成瀬と共通点を持てたことは、純粋に嬉しかった。
また、我が母校・立命館大学の後輩が新キャラとして登場するのも感慨深い。
「ゼゼカラならぬリツカラでM-1出ようぜ!」
興奮のあまり、プルーフを読了済みだった書店員の友人に思わず電話をかけた。
ちなみに彼は学生時代の同級生で、成瀬をきっかけに再会し、共にミシガンに乗船した仲でもある。ちなみにM-1出場は即刻拒否された。
さて、話を戻そう。
『成天』『成信』と、圧倒的なカリスマ性や行動力を見せてくれた成瀬。もちろん、『成駆』でも彼女の輝きは際立っているが、俺が胸を打たれたのはそこじゃない。
物語の人物たちが抱く、「成瀬あかりを応援したい!」というストレートな情熱にグッときたのである。
決して彼女は万能ではない。
芯はあるが、弱い部分もある。
それを優しく理解し、手を差しのべてくれる人たちがいるからこそ、彼女は輝くのだ。彼らの存在なくして成瀬あかりの歴史は成り立たない。史上最高の主人公の裏側には、多くの愛が存在するのである。
特に、最終章の『琵琶湖の水は絶えずして』では、それが顕著に表れていた。
ネタバレになるので詳しくは書けないのだが、やはり、親友・みゆきの言葉が最も響いた。幼き頃より一緒にいるからこそわかること。そして、これから先の未来へ想うこと。温かな純情に満ちたみゆきの言葉に、気付けば俺はぼろぼろと涙を流していた。
心を震わせるのは成瀬ひとりではない。そこがこの成瀬シリーズの味わい深いところなのだと俺は思っている。
......やばいな、感情の勢いが止まらない。
文字数が記事の限界を迎えてしまったので、続きはまたどこかの機会で話そうと思う。
物語が終わっても、成瀬への愛は絶えずして。
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- BUNKITSU TOKYO 成生隆倫
- 立命館大学卒業後、音楽の道を志すが挫折。その後、舞台俳優やユーチューバーとして活動するも再び挫折し、コロナ渦により飲食店店員の職も失う。塾講師のバイトで繋いでいたところ、花田菜々子さんの著書と出会い一念発起。書店員へ転向。現在は書店勤務の傍らゴールデン街のバーに立ち、役者業も再開している。座右の銘は「理想はたったひとつじゃない」。

