『『罪と罰』を読まない』岸本佐知子、 三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美
●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂
ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがありますか?
ある人は①へ、ない人は②へ。
• どんな話か説明できますか?
「ラスコーなんとかという青年が、老婆を殺す話」だと思った人は②へお進みください。もっと詳しく説明できると言える人に、私はこの本の楽しみ方を伝えられないかもしれません。次回紹介する本にご期待ください。「いやいや、それってどんな本?」と思ってくださったなら、②へどうぞ。
• どんな話か知っていますか?
「ラスコーなんとかという青年が、老婆を殺す話」だと思っている人は、この本を読む下地ができています。もちろん、全くわからない人でも大丈夫です。
不思議なタイトル『『罪と罰』を読まない』は、本を読まないで読書会をしようという少し奇抜な企画からきています。読書会に参加したのは、小説に携わる仕事をしているのに、『罪と罰』を読んだことがなかった4人(三浦しをん・岸本佐知子・吉田篤弘・吉田浩美、敬称略)です。
この企画は、一番初めの質問に対しての答えが、読んでない人と読んだ人の認識に違いがないと気が付いたところから始まります。読書会のルールは、シンプルに。①読まずに、作品の内容を推理する。②読書会の初めに、冒頭1ページだけ、英語版から岸本さんが翻訳したものを全員で読む。③唯一読んだことのある人を立会人とし、読書会の途中、何度か本文を読み上げてもらい、方向性のヒントにする。あとは、ただ話し合うのみ。
その読書会という名の、おしゃべりが大変くだらなく(←申し訳ない)て、とてつもなく面白い。数少ないヒントをたよりに、4人がおしゃべりするのを、横で聞いている感じです。かくいう、私も『罪と罰』を読んでいなかったので、何が間違っているのか分からず、ただただ面白く読めました。読まずに読書会をして、一応の結末が出た4人は、その後きちんと『罪と罰』を読んで、座談会を開いています。それも大変盛り上がっていました。
この本を読んでから、私も『罪と罰』を読んでみました。それから、改めて『『罪と罰』を読まない』を読むと、また違った角度から楽しめるんです。この変わった読書会ですが、「本を読むとは何か」という話につながっていて、面白いだけではありません。
あなたも知り合いに聞いてみましょう。
「ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことある?」「あるなら、どんな話だった?」「なくても、どんな話か知ってる?」と。
「ラスコーなんとかって青年がおばあさんを殺すんでしょ」と答えたなら、しめたもの。この本の面白いところは、仲間を増やしたくなるんです。私も、数人の同僚に押し付けていました。ドストエフスキーを読んでいなくても楽しめるんです。お手軽ですよね? あとは本を手に入れるだけ。さぁ、仲間になりませんか?
- 『ノラネコぐんだん パンこうじょう』工藤ノリコ (2018年10月11日更新)
- 『崖の館』佐々木丸美 (2018年9月13日更新)
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- 文信堂書店長岡店 實山美穂
- 長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。