『みちのきち 私の一冊』國學院大學ブックプロジェクト

●今回の書評担当者●田村書店吹田さんくす店 渡部彩翔

  • みちのきち 私の一冊
  • 『みちのきち 私の一冊』
    國學院大學ブックプロジェクト
    弘文堂
    1,200円(税込)
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私にとって、黒柳徹子さんの『窓際のトットちゃん』は特別な一冊です。
でもトットちゃんを紹介したいと思ったとき、「他の人の特別な一冊って、どんな本だろう?」と、ふと考えました。

本書は、國學院大學が「学生時代にたくさん本を読んでほしい。そしてあなたにとっての"座右の書"に出会ってほしい」という願いを込めて制作したブックガイドです。
多分野で活躍する109人が、1冊ずつ本を紹介しています。

──あなたにとって特別な1冊はなんですか?──

見開きで、美しい撮り下ろしの本の写真とともに綴られる、本の感想やエピソードたち。
紹介してくれるのは大手企業の社長や、スポーツ選手、歌手、作家、芸術家など、第一線で活躍されている方ばかりです。
「普段どんな本を読んでいるんだろう?」「どんな言葉に心を動かされたのかな。」と、他人の本棚を覗くような気持ちで、ページをめくる楽しさがあります。
感想にはそれぞれの人柄や想いが滲んでいて、どのページも読むたびに心が潤います。

私は読書が大好きですが、ときどき書店の棚を眺めても、「読みたい本」が見つからないことがあります。
そんなときは、上司や友人、家族に「自分の好きな本」を教えてもらうことがあります。
尊敬する人が心を動かされた言葉に触れたり、自分と違う視点での本の楽しみ方に気づくことで、驚きや新たな発見が生まれます。
「好きな装丁家さんが表紙を手がけた本なんです」と紹介されたこともありました。
それまで、表紙の見た目で本を選ぶことはあっても、「誰が、どんな想いで表紙を作ったか」にまで思いを馳せることはなかったので衝撃を受けました。
それ以来、私はブックカバーを外して読むことが増えました。好きな本の"広告塔"になったつもりで、表紙を愛でながら読むのが密かな楽しみです。
「読みたい本」に出会えることは、とても幸せなこと。
自分では辿り着けなかった一冊に、誰かの導きで出会える──。
それだけでも、その本が特別なものになります。

当店では、お客様からスタッフにお勧めの本を尋ねられることもあります。
「私が紹介した本が喜んでもらえるかな?」と不安に思うこともありますが、同じように迷いながらも、本の魅力を熱心に語るスタッフを見ていると、その話を楽しそうに聞き、嬉しそうに本を手にとるお客様の姿に心が温かくなります。
人の心を動かすのは、まさに人の想いなのだと改めて感じました。
本書も、そんな想いが綴られた109冊の本の贈り物です。

同じ本でも、人によって感想が全く異なるのは、各々の経験に基づいた解釈があるからだと感じます。
正解はなく、楽しみ方はその人次第で無限に広がっていくのが、読書の素敵なところです。
「良い読書は人生の障壁を破ることがある」
昔は無味乾燥に思えた本も、今読むと心にグサリと刺さることがあります。
思わずメモしたくなる言葉や、声に出してみたくなる言葉に出会い、日本語の美しさ、表現力の豊かさに感動します。良い言葉に触れることで、自分を表現する力を得ることができると教えてくれます。
スマホひとつで世界中の情報が手に入る時代に、「本の力」を信じている本書作成メンバーの想いが、この本には溢れています。

誰もが必ず、読んでみたいと思える本と出会えるはずです。
最後には、文章を読むことが楽しくなる本書の工夫にも気づくことでしょう。
装丁へのこだわりや、『みちのきち』という言葉に託された想い、本と「出会う」ことの素晴らしさを感じさせてくれる、最高の1冊をお勧めします。

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田村書店吹田さんくす店 渡部彩翔
田村書店吹田さんくす店 渡部彩翔
田村書店吹田さんくす店に勤務して3年弱。主に実用書・学参の担当です。夫と読書をこよなく愛しています。結婚後、夫について渡米。英語漬けの2年を経て、日本の活字に飢えに飢えてこれまで以上に本が大好きになりました。小さい頃から、「ロッタちゃん」や「おおきな木」といった海外作家さんの本を読むのが好きです。今年の本屋大賞では『存在のすべてを』で泣きすぎて嗚咽しました。