道尾秀介の勝負作、いよいよ発売。

文=大森望

 道尾秀介(1975年、兵庫県生まれ)は、今もっとも注目される若手ミステリ作家。
 昨年、『カラスの親指』で日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞したのに続き、今年は『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞と破竹の勢い。春にはフジテレビの月9「月の恋人」の原作まで手がけ、新潮文庫版『向日葵の咲かない夏』は、発売から2年で今夏ついに100万部を突破した。
 直木賞は、昨年から今年にかけて、4期連続で候補入り(『カラスの親指』『鬼の跫音』『球体の蛇』『光媒の花』)。もし次回も候補になれば、戦後では初めての5期連続候補となるが、次回直木賞レースの本命と噂されるのが、9月13日に発売された道尾秀介の新刊『月と蟹』。鎌倉近郊(逗子あたり)の海辺の町を舞台に、小学5年生の同級生3人のドラマを描く、スリリングな少年小説だ。
 ミステリの骨格に頼らず、さまざまなイメジャリーを駆使して心理劇を組み立ててゆく手法は『球体の蛇』とも共通するが、徹底的に無駄をそぎ落とし、さらにシンプルに研ぎ澄ました印象がある。今回、メインとなるモチーフはヤドカリ。少年たちがライターの火で殻を熱し、ヤドカリをあぶり出す描写がなんとも言えず生々しい。
 著者みずから自信作と語る本書で、はたして5度目の正直はなるのか。結果がわかるのは来年の1月。刮目して待ちたい。

(大森望)

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