作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その1「好きな作品のパロディーを書く」 (1/9)

  • それいけズッコケ三人組 (こども文学館 3)
  • 『それいけズッコケ三人組 (こども文学館 3)』
    那須 正幹,前川 かずお,前川 澄枝
    ポプラ社
    1,100円(税込)
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  • 花のズッコケ児童会長 (こども文学館 55)
  • 『花のズッコケ児童会長 (こども文学館 55)』
    那須 正幹
    ポプラ社
    1,100円(税込)
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  • 最新版 指輪物語1 旅の仲間 上 (評論社文庫)
  • 『最新版 指輪物語1 旅の仲間 上 (評論社文庫)』
    J・R・R・トールキン,瀬田貞二,田中明子
    評論社
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  • デルトラ・クエストI (1) 沈黙の森
  • 『デルトラ・クエストI (1) 沈黙の森』
    エミリー ロッダ,岡田 好恵
    岩崎書店
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  • ONE PIECE 1 (ジャンプコミックス)
  • 『ONE PIECE 1 (ジャンプコミックス)』
    尾田 栄一郎
    集英社
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  • NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプコミックス)
  • 『NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプコミックス)』
    岸本 斉史
    集英社
    484円(税込)
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

結城:幼稚園の頃に母親に読み聞かせてもらってはいたんですが、明確には憶えていなくて。自分から主体的に本を読んだ記憶でいちばん古いのは、小学校1年か2年の頃に読んだ『ズッコケ三人組』という気がします。自分の世代では誰もが一度は通るシリーズだろうし、自分も全巻読み切った唯一のシリーズじゃないかと思います。

――それくらい夢中になったということですか。

結城:はい。学校の図書室に揃っていて、毎週毎週借りていました。特に『花のズッコケ児童会長』のオチはいまだに憶えていますね。素晴らしい落としどころだなと子供心にも感動したんです。ネタバレになるので詳しく言えないんですけれど、ハチベエが児童会長に立候補して対抗馬と最後まで争う話なんですが、誰もあまり傷つかないきれいな着地をしているんです。

――図書室でよく本を借りる子供だったのですか。

結城:そうですね。でも大の本読みという感じではなく、基本的に外を駆けずり回っていることが多い子供でした。それでも図書室から借りてきた本が家に常時何冊かあって、家に帰ってきた時や寝る前にちょろちょろ読んでいました。

――ご出身ってどちらでしたっけ。

結城:横浜市の戸塚です。近所に牧場があったり、「となりのトトロ」に出てきそうな森があったり、下水道に入れる穴みたいなものがあったりして。それこそ友達と下水道の中に入ってどこまで奥に行けるか挑戦したり、山に秘密基地を作って、ラジオを持ってきて聴いたり拾ったライターでマシュマロをあぶって食べたり、拾った雑誌を読んだりしていました。そんなことばっかりやっていたので読書漬けという感じではなかったんですが、本は身近にはありました。

――振り返ってみて、どういう子供だったと思いますか。わんぱくだったのか、それとも...。

結城:それでいうと、わんぱくないたずら小僧でしたね。下水道の探検などの他にも、学校の砂場で水出しながら砂の投げ合いっこして先生にブチ切れられるとか、校舎の裏に設置されている物置の屋根に上って飛び跳ねているのを近所の人に通報されるとか、そういうことばかりしていました。そういうレベルのわんぱく小僧でした。

――結城さんは開成中学に進学されていますよね。勝手に、小学校の頃から成績は良かったんじゃないかなと思ってしまいますが。

結城:小学校の成績はたぶん、そんなに...。悪くはなかったですけれど、そんな100点満点連発、みたいな感じでもないです。通信簿は授業態度でだいぶ減点されていますし、授業への興味、関心は低かったと思いますし。

――国語の授業は好きでしたか。

結城:正直言うと、あんまり好きじゃなくて。たとえば、段落の頭の一字下げになっているところに数字を振っていきましょうとか言われても、何の意味があるんだと思っていました。それに、教科書に載っている物語ってたいてい全文ではなく抜粋じゃないですか。だから物足りなさがありました。
 でも、たしか小2の時に、国語の教科書に宝の地図みたいなものが載っていて、自由にお話を創作しましょうという授業があったんですね。それは本当に楽しんだ記憶があります。
 それぞれ地図を見ながら物語を書いて、班の中で回し読みをして、いちばん面白いと言われた奴が班代表としてクラスの前で読み上げるんですけれど、その班代表に選ばれてみんなの前で読んだ時に、いつもは騒がしいクラスがシーンと静まり返って僕の話を聞いて、「面白い」というリアクションが返ってきて。それはいまだにいちばん楽しかった授業として憶えています。

――どんな物語を創作されたのでしょう。冒険物語だとは思いますが。

結城:本当に気の向くままに書いたんですけれど、地図に載っているいろんな要素はできる限り拾いましたし、ここでこういうピンチになって、それをどう突破するかを書いたら面白がられるかな、みたいなことは考えました。結果反応が良かったので嬉しかったんですけれど、反応がなかったとしても、そうしてお話を考えるのがめちゃめちゃ楽しいなという感覚を持った経験でした。

――その頃、将来、お話を作る人になりたいと思っていましたか。

結城:そうですね。小説家に限らず、漫画家とか、映画監督とか、なにかしらお話を作って読み手だったり観客だったりを面白がらせたいという気持ちが強かったと思います。
 それで、読んでいた本や漫画のパロディーみたいなものを、父親が仕事で使って要らなくなった書類の裏に書き散らしていました。

――どんな作品のパロディーを?

結城:挙げ始めるときりがないんですけれど、「ハリー・ポッター」シリーズを読んで、魔法学校になぞらえて剣術学校に入学した子供たちの話を書こうと試みたり、『指輪物語』のあの空気感や出てくる言葉に惹かれて、王国の地図みたいなものを書いて、この地点で旅のメンバーが分断されて、でもこの地点で合流して、みたいなことを考えたりしていました。

――ファンタジーや、壮大な話が好きだったのですか。

結城:好きでした。エミリー・ロッダの『デルトラ・クエスト』という、王国に散らばった七つの宝石を集めて巨悪を倒すという冒険もののシリーズが好きで、朝の10分読書の時に延々と読んでいましたし。当時はミステリーではなく、ファンタジー系とか、壮大な話系が好きだったんじゃないかなと思います。あとは星新一さんもよく読みました。星さんのショートショートで何が好きかと訊かれたら「午後の恐竜」一択ですね。それくらい好きです。

――漫画はどのあたりを?

結城:王道の王道で、『ONE PIECE』、『NARUTO』、『ドラゴンボール』、『ドラえもん』あたりは当時出ていた分は全巻持っていました。

――え、持っていたんですか。

結城:塾のテストが終わった後に、「今日は3冊まで」などと冊数を指定されて買ってもらえたんです。じゃあ今回は『ONE PIECE』を集めようとか、今回は『ONE PIECE』と『NARUTO』と『ドラえもん』で1冊ずつちらばせようなどと考えながらコツコツ集めていました。

――さきほど、将来について映画監督も頭にあったようですが、映画も好きだったのですか。

結城:映画というか、特撮ですね。戦隊ものとか、ウルトラマンがすごく好きだったんです。僕のその話を聞いて、一回父親が知り合いがいるということで、円谷プロダクションのウルトラマンの撮影現場に連れていってくれたんです。たかだか空から降りてきた怪獣がビルをぶっ壊すという1シーン撮るのにすごく手間をかけているのを見て、自分もこれはやりたいと思って。翌日、自分で段ボールを切ってビルを作って、当時持ってたおもちゃの怪獣を間に立たせてホームビデオで撮りました。再生してみたら、もうチープもチープで、これは駄目だと思いましたけれど(笑)。
 なんか、見たり読んだりしていいなと思ったものは自分もやってみたくなる子供だったと思いますね。『ハリー・ポッター』や『指輪物語』を読んで真似して物語を考えるのもそうですし。

――スポーツは何かやっていましたか。

結城:水泳をやっていました。当時は、水泳選手にもなりたいと思っていました。選手コースに来ないかという誘いがきたタイミングで、母親に「あなたは中学受験するからそんなことやってる場合じゃない」と言われ、塾に放り込まれました。

――水泳、優秀だったんですね。

結城:自由形で横浜市の小6のベスト8に残ったレースで、飛び込んだ瞬間にゴーグルが吹っ飛んでいつもより3秒くらい遅くなって圧倒的にビリでゴールした夏に、これはもう、水泳選手じゃなくて勉強したほうがいいんだなと自分でも思いました。

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