第246回:結城真一郎さん

作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その7「会社勤務しながらデビュー」 (7/9)

――就職して、仕事しながら小説を書き続けていったわけですか。

結城:最初の頃はもう、日々の生活をこなすのが精一杯で書けなかったです。めちゃくちゃ忙しい時期はそれどころじゃなくて、帰ったらぶっ倒れて寝るという生活をしていたので、コンスタントに書いていたわけではないです。でも時間が確保できてメンタルも落ち着いている時にコツコツとは書いていました。

――本は読めていましたか?

結城:仕事がとっちらかっている時は読めませんでしたが、そうじゃない時は、引き続き新人賞でデビューした方たちの作品や、ミステリー系と呼ばれる人たちの本は読んでいました。特定の誰かというわけではなく、書店に行って平積みになっていたら手を伸ばす、という感じでした。ほぼ国内の作家さんばっかりでした。

――そして2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞したのが、『名もなき星の哀歌』ですよね。人の記憶を買ったり売ったりするアルバイトを紹介された青年たちの話という、不思議な要素のあるものでしたよね。そういう特殊な設定を考えることが多かったんでしょうか。

結城:それまでに書いた小説が卒業文集と第2回に応募したものだけなのでなんともいえませんが、小学生の頃ファンタジーを結構好んでいたり、星新一さんが好きだったり、『世界不思議大全』を読みふけったりしたように、そういう要素に惹かれる素地はありました。デビュー作はそこがにじみ出た気がしています。

――ああ、『名もなき星の哀歌』が2度目の応募だったのですね。最初の投稿から間があいていますが、かなり時間をかけて書き上げたわけですね。

結城:忙しくて書けなくて半年くらい原稿が塩漬けになっている期間も含めて2年半かけました。毎年1作書き上げてどこかの賞に応募するよりは、じっくり書いて、送り出して恥ずかしくない形になったら一球入魂で突っ込もうと思っていました。

――目標通り、20代でデビューが決まったわけですね。

結城:ここで落ちたらもうワンチャンスくらいしかないと思っていたので、デビューできて安堵しました。と同時に、毎年これだけの数の新人が出てくる世界でこの先頭一つ抜けていかなきゃいけないなんてとんでもない茨の道だなと、受賞の連絡をいただいた瞬間から思っていました。

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