第246回:結城真一郎さん

作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その2「中学時代にハマった作家」 (2/9)

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  • 『レベル7(セブン) (新潮文庫)』
    みゆき, 宮部
    新潮社
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  • ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)
  • 『ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)』
    宮部 みゆき
    新潮社
    880円(税込)
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――中学受験するとご両親が決めていたわけですね。

結城:なんとなく「受験するんだよ」と言われ続けてきて、気づいたら塾の体験授業に放り込まれ、なし崩しで受験生活が始まったんですが、そんなにネガティブだったわけではないです。地元の友達と離れちゃうのは嫌だったんですけれど、塾の授業は学校の授業より進んでいて楽しかったですし、好奇心をくすぐられましたから。

――受験する学校はどのように決めたのですか。

結城:もともと親が見繕っていたんですけれど、最終的には自分で、開成に行きたいと思いました。両親に連れられて開成の運動会を見に行ったんです。成績表でいつもすごく上位にいる学校だから、どうせ頭でっかちなガリ勉集団のもやしっ子ばかりだろうと勝手に偏見を持っていたんですけれど、その運動会がものすごい熱量で、騎馬戦や棒倒しで雄叫びあげたりしているのを見て、ここに混ざりたいなと素直に思いました。それで第一志望にしたという感じですね。

――そして狭き門を潜り抜け。風通しよさそうな学校というイメージがあります。

結城:校則とかはあってないようなもので本当に自由でしたし、教師もうるさいことを言わないですし、いい意味で、別に大したことのない奴らが多かったというか。あの、世間からすると受験モンスターの奇人変人集団に見えるかもしれませんが、確かに勉強はできたと思うんですけれど、本当にどこにでもいる中高生たちの集団だなというのは実感して、すごく楽しかったです。

――中学時代はどんな本をどのように選んで読んでいたのでしょう。

結城:書店で面白そうだなと思った本や、友達が読んで面白かったという本を読み、面白かったらその作者の他の本も読んでみるという、そういう感じでした。多かったのは、東野圭吾さん、伊坂幸太郎さん、宮部みゆきさん。東野圭吾さんはたぶん最初に読んだのが『白夜行』で、「こんな分厚いのに読めるかな」と思いながら、気づいたら読み切っていました。それと、時期が明確じゃないんですけれど、『容疑者Xの献身』は刊行された直後にハードカバーで読みました。宮部みゆきさんは最初に『レベル7』を読んで面白いなと思ってハマり、『模倣犯』なんかは授業そっちのけで読んでいました。『ソロモンの偽証』なんかもその流れで手に取りましたし。伊坂幸太郎さんはだいたい読みましたが、すごく憶えているのは『ゴールデンスランバー』を試験期間中に徹夜で読んだこと(笑)。
 他には、福井晴敏さんの『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』なんかにも激ハマりして読んでいました。
 あとは、たぶん後でその話になるんですけれど、いちばん忘れられないのは高見広春さんの『バトル・ロワイアル』。偶然、友達の机の上に文庫になる前の、ペーパーバックみたいなあの分厚い本が置いてあって、仰々しい表紙の洋書でも読んでいるのかなと思って話しかけ、あらすじを聞いて面白そうだったんで借りたんですね。借りて手を出したら最後、もう死ぬほどのめり込んで、博物館みたいなところに見学に行く課外授業のバスの中でも読んでいましたし、館内をまわっている間も説明を聞かずに読み続けて、あの分厚さなのに2、3日で読み切ったんです。それくらいドハマりした、本当に人生を変えた1冊だなと今でも思っています。

――面白いのはもちろん分かりますが、当時、なぜそこまで引き込まれたんだと思いますか。

結城:当然面白いというのがあって、もうひとつ、やっぱりちょっと背徳感があったんですよね。中学3年生が殺し合うっていう、褒められた内容じゃないだけに、なにか変な高揚感がありました。それに、まさに僕も中学3年生だったので、彼らに共感できたかというと微妙ですけれど、同い年の連中がこういうふうに集められて闘っている設定にとてつもない衝撃を受けました。今まで読んできた、いわゆる眉をひそめられない文学とは対極に位置していて、「あ、小説ってこんなのもありなんだ」という懐の深さみたいなものを感じました。

――学校の課題図書的なものの読書体験でなにか思い出はありますか。夏目漱石とか太宰治とか...。

結城:それこそ『坊っちゃん』とか『杜子春』とか『蜘蛛の糸』といったあたりは課題図書として読みましたが、「学校の課題」という枕詞がついたとたんに、「いやそんなんで読まされても」というひねくれた自分が出てきてしまって。そのうえ感想文を書かなきゃいけなかったりすると、「なんで読まなきゃいけないんだよ」という気持ちになっていました。
 でも、実際に読み始めると面白いんですよね。だから読んでいる間はその世界に没入しているんですけれど、でも「感想書かなきゃいけないのか」というのがちらつくと「やってらんね」みたいな気持ちがよぎるという。
 なので、そういうことを抜きにして読んだ、まるで正反対の『バトル・ロワイアル』はそれだけに衝撃的だったんだと思います。

――感想文は得意でしたか。

結城:どうですかね。気持ちとしてはだいぶマイナスで、まったくやりたくなかったんですが、最終的にそれっぽいものを仕上げて提出していました。単にあらすじをまとめてどう思ったかという感想だけじゃなくて、「こういう場面でもし自分だったら」とか、「主人公が追い込まれたこの状況と似たことが自分にもあって」とか、そんな類いの話を出して自分の現実と地続きである感じを出したほうがいいんだろうな、とか考えていましたね。だから、それっぽくまとめる能力はあったのかなと思います。

――ところで、中学時代は部活はどうしていたのですか。水泳は続けなかったのですか?

結城:部活はサッカー部です。開成はプールがなくて、海に泳ぎに行くしかなくて、だったら切り替えようと思いました。

  • ゴールデンスランバー (新潮文庫)
  • 『ゴールデンスランバー (新潮文庫)』
    幸太郎, 伊坂
    新潮社
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  • 亡国のイージス 上 (講談社文庫)
  • 『亡国のイージス 上 (講談社文庫)』
    晴敏, 福井
    講談社
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  • 終戦のローレライ(1) (講談社文庫)
  • 『終戦のローレライ(1) (講談社文庫)』
    福井 晴敏
    講談社
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  • バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1
  • 『バトル・ロワイアル 上 幻冬舎文庫 た 18-1』
    広春, 高見
    幻冬舎
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