第246回:結城真一郎さん

作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その6「あの人のデビューに衝撃を受ける」 (6/9)

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――本腰いれて書こうと思ったきっかけがあったのですか。

結城:在学中に、大学の同級生の辻堂ゆめさんが『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を獲ってデビューしたっていう、もうその一撃に尽きますね。
 これまでお話した通り、自分はいずれ作家になるだろうという根拠のない自信を抱えているだけで、なにも行動に移していない、夢見がちな駄目野郎だったんです。でも同じ学部の同級生から実際に応募して賞を獲ってデビューを決めた人間が現れたというのはかなりの衝撃でした。自分と同じような発想の奴はいないだろうと思っていたのに、実際にいて、しかもそれで栄冠を勝ち取ったというのはもう悔しすぎて、そこでこれは自分も本気で目指そうと火がつきました。いわゆる"辻堂ショック"です。

――その頃はまだ辻堂さんとは面識がなかったんですか。

結城:なかったです。いや本当に、友達から聞かされた瞬間を明確に憶えています。食堂でラーメン食ってる時に、さらっと「同級生がデビューするらしい」と言われて、僕だけラーメン食べる手が止まって、すぐに言葉も返せず、ようやく出た言葉が「なんて名前でなんて賞?」って。まずそれを知らないことには始まらん、みたいな感じて、ちょっとテンパってましたね。

――受賞が発表されてから本になるまではしばらく間がありますが、辻堂さんのデビュー作『いなくなった私へ』は刊行されてすぐにお読みになったんですか。

結城:当然読みましたし、『コーイチは、高く飛んだ』などもその後追って読んでいました。でも、その前に、なにより自分が書かなきゃっていうスイッチが入って、ひたすら書いていました。そこで一気に書いて、卒業間近の頃に第2回新潮ミステリー大賞に応募しました。
 なんとなくこんな話は面白いかなと、昔から思っていた筋があったので、それをちゃんとアウトプットして応募したんです。でもそれはもう、なんの音沙汰もなく、闇に葬られましたけれど。

――その時、卒業後の人生設計はどのように考えていましたか。

結城:受賞するにせよしないにせよ、就職しようとは思っていました。小説家として一本立ちするなんて万馬券を当てるよりきついだろうと思っていたのと、やっぱり社会人という世界を経験しておくことが小説家としてデビューすることにマイナスになることは絶対にないと思っていたので。むしろ組織に身を置いて、意にそぐわない指示が飛んでくるとか、辞令が出て思ってもみない部署に行くとかいうことも、全部が小説家になった時に血となり肉となる予感があったので、就職しました。

――働きながら応募生活を続けるなら執筆時間の確保も考えなければならないですよね。どのように就職先を選んだのでしょうか。

結城:今も勤めている会社なので支障のない範囲で言うと、若いうちでもある程度裁量を持って面白いことができる会社がいいなと考えました。
 というのも、辻堂さんのデビューを目の当たりにした後に立てた目標として、20代でデビューする、というのを立てたんですね。辻堂さんに先を越されたというのが理由ですが、と同時に、自分が基本的に流されやすい、甘い人間なので、明確に期限を設けたほうがいいと思って。
 そうなるとやっぱり、若年時の間からある程度責任者の裁量を持たされて動き回る、みたいなことをしたほうが、小説の種になる確率が高くなる気がしたんです。なので、経験をたくさん与えてくれそうな会社かどうかは、重視したポイントでした。

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