第246回:結城真一郎さん

作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その3「卒業文集は長篇小説」 (3/9)

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――お話の創作はされていませんでしたか。

結城:ほとんどしなかったんですね。友達とルーズリーフに漫画を数コマずつ描いて交換日記みたいなことはやりました。友達がいつも変な方向に話を展開させるので、僕のターンでいかに整合性を取らせるかという。そこで伏線回収的な訓練を積んだ気もします(笑)。でも、それは他の人に見せることもなかったです。読み手を意識して書いたのは、卒業文集の時でした。

――その卒業文集の話を、ぜひ詳しく(笑)。

結城:開成中学は全員そのまま高校に持ち上がりになるので、卒業文集はみんなぜんぜん気合入れて書こうとしないんですよ。なんですけれども、全員最低1枚は書くことが義務付けられているんです。サッカー部の何人かで飯を食っている時に、「卒業文集だりいよな」「やってらんねえよ」という声が多くて、純粋にその時の思いつきで、「お前たちのページ全部俺にくんない?」って話をして。つまり、サッカー部でリレー小説を書いたというテイにして、書きたくない連中の枠を全部自分がもらって小説を載せれば、自分は長く書けるし、サッカー部が一丸となって面白い企画をやっているように見えるし、書きたくない奴は書かなくてすむしで、三方よしというか。誰も損しないスキームだと思ったんです。
 その時にちょうど読んだばかりだったのが、『バトル・ロワイアル』でした。それで、中3サッカー部員の実在の同級生たちが開成高校への進学をかけて殺し合うって話にしたら受けるだろう、っていうのをその場で話したら、みんながもう「やったれ」って(笑)。
 それがきっかけだったんですが、書き始めたらもう、とんでもなくのめり込んでしまって。教室移動のない授業中はずっとルーズリーフに書いている感じで、ふたを開けてみれば1人最低1枚と言われていたのに、たぶん原稿用紙換算で5~600枚くらい書きました。それを卒業文集に載せました。

――登場人物が実際のサッカー部の仲間たちだとすると、誰をいつどう殺すか悩みそうですよね。

結城:そうですね。序盤に殺されるのがいじられキャラに集中しすぎても物語としての裏切りがないので、サッカー部の中でも主軸を張っているような奴が序盤でやられたり、意外とネタキャラだと思われている奴が最後まで残るといったことは自分なりに考えました。あと、当然、「こういう感じで殺されることにしようと思ってるけど大丈夫?」などといって、一応みんなに許諾をとりました。そうするとやっぱり何人かは「いやちょっと誰かに殺されるのは嫌だから、自分のミスとか銃が暴発して死ぬようにしてくれ」といったオーダーが出てきて、そうした各人の意見を調整しながら書きあげました。

――提出した時、教師の方々はどういう反応だったのですか。

結城:提出先は各クラスにいる文集委員だったので、直接先生には見せてないんです。ルーズリーフに書いたものをサッカー部のメンバーで手分けして打ち直してデータにしてファイルを送っただけなので、先生の間でなにか議論があったのかは知らないんですけれど、でも最終的にまったく何の修正指示も入らず、そのまま載せるという判断をしてもらえました。そこはすごく校風が表れていますよね。変に止めようとしなかった環境にいたのは、今思えばありがたかったです。

――同じ学年の方々はみんなその文集持っているんですね。

結城:世界に300部だけあります(笑)。
その時に、やっぱり書く行為がめちゃめちゃ面白いと実感しました。何より大きかったのは、同級生たちや、そこから波及して保護者からの反響が届いたことですね。自分の書いたものに対してリアクションがある、あるいは、それぞれが時間をかなり割いて自分の書いたものを読んでくれたということ自体がすごく嬉しかった。これを仕事にしたら相当楽しいだろうなと、その時に明確に思いました。

――どんな反響があったのですか。

結城:保護者からの反響がやっぱり心に残っていて、「のめりこんで読んでいたら家族の食事を作れなかった」とか「誰々君が死ぬシーンは格好よすぎてちょっと涙出そうになった」とか、「うちの子が死ぬシーンが情けなさすぎる」とか(笑)。本当に十人十色だったんですが、全員ある程度楽しんでくれたんだと実感できる熱量でしたし、やっぱり、何も知られていない馬の骨が書いたあの長さのものをみんな読み切ってくれたというのは自信になりました。将来的にこの方向で闘えるんじゃないか、みたいな自信にも繋がりました。

――どんなものを書いたのか気になりますね。でも実際のサッカー部のメンバーのキャラクターを知った上で読みたい(笑)。

結城:当時、自分もまさに同じように思っていました。僕の書いたものは、登場人物がどういうキャラかを、みんなが知っている前提で書いているじゃないですか。だからキャラの説明が一切なくても面白がらせたんですけれど、商業出版的なものを書くとなったら、各人がどういう位置付けで、この人がこういうことをしたら面白いとか、あの人がこういうことをするのは妙だ、ということも描写しなくちゃいけない。自分にはまだその力はない、もし本当にゼロイチで何かやるとしたら、こんな簡単にはいかないだろうなと書きながら思っていました。

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