第246回:結城真一郎さん

作家の読書道 第246回:結城真一郎さん

2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受賞した『名もなき星の哀歌』でデビュー、今年は第4作となる短篇集『#真相をお話しします』が大評判となっている結城真一郎さん。中学校の卒業文集執筆の際に影響を与えたベストセラー、新人賞の投稿へと火をつけたあの作家…。読書遍歴と作家への道、今の時代のミステリーについての思いなどたっぷりうかがいました。

その9「最近の読書とこれから」 (9/9)

  • テロリストのパラソル (角川文庫)
  • 『テロリストのパラソル (角川文庫)』
    藤原 伊織
    角川書店
    649円(税込)
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  • 雪冤 (角川文庫)
  • 『雪冤 (角川文庫)』
    大門 剛明
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    704円(税込)
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――ご自身でもYouTubeをご覧になったりするんですか。

結城:もう死ぬほど観てますね(笑)。観ている時間を全部執筆に回したら、あと3冊くらい出せていたんじゃないかっていうくらい。そういう意味で、本当に自分もYouTubeの面白さを骨身にしみてわかっているゆえに、観る時間を読書に振り分けてもらうのはハードルが高いと実感しています。そこにいかに風穴を開けて本というものに手を伸ばしてもらえるかは、今回の新刊で意識したポイントでした。

――どういう動画を観ているんですか。

結城:東海オンエアとか、Quizknockといったいわゆる人気YouTuber系とかも観ますし、各お笑い芸人のチャンネルでライブの映像が上がったら観ますし、スポーツのハイライトとかも。本当にどっぷり観てます。

――そういうえば、映画など、小説以外で影響を受けたと感じる作品ってありますか。

結城:映画でいうと、これはもう大好きなんですけれど、「バタフライ・エフェクト」と「スラムドッグ$ミリオネア」です。特に「バタフライ・エフェクト」は最後の落としどころとかその見せ方が好きで何度も繰り返し観て、自分もこんな話を小説で書きたいなと常々思わされてきました。
 最近でいうと「アベンジャーズ」シリーズは全作やっぱり好きですね。エンタメとして大風呂敷を広げて期待を高め切ることを成し遂げた稀有な例だと思っています。そこまでの大長篇みたいなことを小説でやれる気はしないんですけれど、でもああいうエンタメは憧れます。

――デビュー後、読書生活はどのようなものを?

結城:デビューが決まった時、僕はそんなにミステリーを読んできた人間ではないと編集者に話したら、読んでおいたほうがいいミステリーの文庫を10冊送ってきてくださったんです。そのなかで特に心に残っているのは、藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』と、大門剛明さんの『雪冤』でした。
 今は基本的に、その年に出た新刊を追い続ける生活になっています。その年のミステリーランキングを席巻するようなものや、みんなが話題にしているものは読むようにはしています。なので古典まで手を伸ばし切れていないんですけれど。

――これは面白かった、という話題作は。

結城:僕が最も先を越されたと思ったのは、浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』ですね。自分も就活を経験しているし、いつか就活を題材にしたものをやりたいと思っていたのに、まさにその部分を切り取られて、しかもあんなに面白い形で仕上げられて、これはもう先にやられちまったなと(笑)。そういう意味でショックを受けましたけれど、純粋に面白かったですし、結末まで何が起こるのか読めず、最後に登場人物たちのイメージが反転する仕掛けなんかもすごくよかったです。

――ちなみに辻堂さんにはもう会いましたよね。この間、新川帆立さんと3人で「僕らの時代」にも出演されていましたし。同時期に東大法学部にいたなかから3人も、しかも3人ともミステリー作家としてデビューしたって、すごいなと思って。

結城:辻堂さんは何回か飲みに行ったりして、新川さんもあの収録の時にお会いしたのは2度目でした。その時に新川さんも、辻堂さんがデビューしたから火がついたと話していました。新川さんも僕も、そうでなくても作家は目指していたと思いますが、辻堂ショックがあって本気になって奮起したって意味では、辻堂さんの同級生が後から続いてデビューしたのは当然の帰結かもしれません。

――今後、どういうミステリーを書いていこうと考えていますか。

結城:今回の『#真相をお話しします』を踏まえて、ここからはミステリー好き以外の人、あるいは普段本を読まない人たちにも訴求する話を主軸に据えたいとは思っていますが、ただ一方で、やっぱりゴリゴリのミステリーにも挑戦したい気持ちがあります。
 今回のようなきわめて現代を切り取るみたいなものも乱発しすぎると陳腐化するので。あまり決めずに、あえてばらけさせて攻めていこうかなと策略を練っています。

――たしかにあまりに現代的なツールを使うと、5年後とかにはもう古くなってる可能性があったりしますしね...。

結城:おっしゃる通りで、そういう意味でいうと、今回の『#真相をお話しします』は5年後10年後読んだ時にどう見えるかはまったく想像つかないというか、下手したらその頃にはだいぶ古びたものになる可能性はあるなと思っていました。でも今回は、普遍的に面白いものではなくて、同じ時代を生きる人たちを今この瞬間に最大限楽しませる方向に舵を振り切ろうと割り切って書きました。でもそれをこの先全部の作品でやるのはしんどいので、ここから先は、折に触れてそういうこともしつつ、手を変え品を変え、挑んでいきたいですね。

――ミステリー以外のエンタメを書く可能性もありそうな気が。

結城:ミステリーだけに特化していくつもりはなくて、他のエンタメの依頼をいただければ、それはそれでやりたいです。でもたぶん、どんなものにせよ、結果的にミステリー的な要素は絶対に入っちゃうと思うんですよね。いわゆる本格みたいに、頭から手がかりを拾っていけば排他的にひとつの解が導き出せるようなミステリーではなくて、後から振り返ってみればここも伏線だったんだと納得いくような、いわゆる広義のミステリーになるかもしれないんですけれど。

――今後の刊行予定などを教えてください。

結城:今は書き下ろしの長篇を書いていて、来年夏くらいまでに出せたらいいなと思っています。他に、「小説すばる」で2、3か月おきに短篇を連載しています。それと、小学館の「SOTRY BOX」の11月号から不定期で新シリーズの連作短編を始めます。「小説新潮」でも来年何か新しいものを、と話しているところです。

(了)