第258回: 斜線堂有紀さん

作家の読書道 第258回: 斜線堂有紀さん

大学在学中の2016年に『キネマ探偵カレイドミステリー』で電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞してデビュー、本格ミステリ大賞の候補になった『楽園とは探偵の不在なり』をはじめとするミステリーのほか、SF、恋愛小説、怪奇幻想譚など幅広い作風で魅了する斜線堂有紀さん。大の本好きでもある斜線堂さんがこれまでにはまった作家、影響を受けた作品とは? その膨大な読書遍歴の一部をお届けします。

その2「夕食の時間は映画鑑賞」 (2/9)

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  • 『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス: ミノタウロスの皿 (1) (ビッグコミックス)』
    藤子・F・ 不二雄
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  • 『ブラック・ジャック 1 (少年チャンピオン・コミックス)』
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――ちなみに生まれ育った街の環境ってどんな感じだったのですか。

斜線堂:生まれたのは秋田県の小さな町で、当時は大きな病院もなかったので皮膚科をメインにやっている病院で生まれたんです。物心ついた頃はあまり周りに人がいない生活を送っていて、でも絵本をいっぱい買い与えてもらっていました。小学校に入る前に埼玉県に引っ越して、いきなり大都会に来たぞとはしゃいでいた思い出があります。私にとっては大きな本屋さんがあることが都会の象徴だったんですよね。親に「好きな本を好きなだけ買ってあげるよ」みたいなことを言われて、なんていいところだ、と思いました。

――漫画もよく読みましたか。

斜線堂:すごく読んでいました。『ドラえもん』が好きだったので藤子・F・不二雄先生のSF短篇集にいって、かの有名な『ミノタウロスの皿』を読み、こんなに面白い漫画があるのかと思い、今度は『ミノタウロスの皿』っぽい物語を書いたりしていました。
そこから手塚治虫作品にいきました。小学校の図書室になぜか手塚治虫作品が揃っていたんですよね。あれって全国共通なのかな?小学生の頃ってみんな図書室においてある漫画は挙って読むという感じだったので、取り合いのように読み『ブラック・ジャック』ブームが来て。私も『ブラック・ジャック』のセリフを言って遊んでいました。お兄さんが象皮病になってしまった弟の話があるんですが、ブラック・ジャックがお兄さんを手術して助けてあげた後、その男の子の前でドラキュラのふりをして、お兄さんにわざと倒されるっていうごっこ遊びの場面があるんですよ。ブラック・ジャックが「ドラキュラーッ」って牙を剥いてね。親友のお気に入りエピソードなこともあり、なぜかあそこを異常に真似していました。

――本や漫画意外に、何か夢中になっていたものってありますか。ゲームとかスポーツとか...。

斜線堂:私の父親がすごく映画好きで、夕食の時には必ず映画を流す決まりがありました。父はまったく子供に配慮せずに自分の観たいものを観るので、すごく怖い映画ばっかり流すんです。夜になると怖い映画が流れるし、部屋には『マーズ・アタック!』のフィギュアだったり『チャイルド・プレイ』のチャッキー人形だったりが飾ってあったので...まるでお化け屋敷のような家だなって思って震えていました。けれど、小学校高学年になると自分でも映画が好きになってきて、幼稚園や低学年の頃は怖かった映画も自分で観られるようになりました。思い出深いのが「ザ・フライ」という、研究者が人体実験の末に自分が化け物になる映画で、小さい頃観た時はすごく怖かったんですけれど、改めて観たらすごく面白かった。そこから映画をよく観るようになりました。家に父のDVDコレクションがたくさんあって、好きなものを観ていいと言われていたので、ポータブルDVDを買ってもらってからは部屋の隅っこで思うままに観ていました。

――それもホラーや怖い作品が多かったのですか。

斜線堂:そうなんです。最初に自分で能動的に観たのは『シックス・センス』でした。当時のDVDのジャケットがすごくお洒落だったので「これなんだろう」と思って再生したら、すごく怖かったんですけれどヒューマンドラマの要素も濃いし、どんでん返しもあるし、すごく面白くて。思うとこれが初めての映画体験だったのかもしれません。

――ごきょうだいはいらっしゃいますか。本や映画の情報や感想を共有することはあったのかなと思って。

斜線堂:三歳下の弟がいますが、小さい頃は弟も身体が弱くて、親が病院に連れていっている間に私は家で一人、みたいな状況が多かったんです。ついていったら今度は勝手にどこかへ行ってしまいますし。大人になった今は弟ともすごく仲良くて結構いっぱい一緒に遊んでいるんですけれど、その頃はあんまり。私は「この弟という生き物はなんだろう...?」と思って、ペットみたいな感覚でペタペタ触りまくっていました。悪気はないんですけれどあんまり触りすぎて泣かせてしまって、母にものすごく怒られた経験は心に残っています。だからたぶん、親も私を野放しにしちゃ駄目だ、くらいのことは思っていたかもしれません。

――ところで、青い鳥文庫は〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉シリーズ以外にはどんなものを読みましたか。

斜線堂:星新一を大人向けのものまで全部読んでしまった後は、読むものに飢えているのに次になにを読めばいいか分からず迷走していた状態だったんです。なので、さしあたって青い鳥文庫の新刊を全部さらうことにしたんです。みんな大好き<パソコン通信探偵団事件ノート>通称パスワードシリーズだったり、眉村卓『ねらわれた学園』だったり、あとは倉橋燿子さんの『いちご』という青春ものはよく憶えています。シャーロック・ホームズも青い鳥文庫のものから読みましたが、文章も硬かったせいかそこまで好きになりませんでした。

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