第258回: 斜線堂有紀さん

作家の読書道 第258回: 斜線堂有紀さん

大学在学中の2016年に『キネマ探偵カレイドミステリー』で電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞してデビュー、本格ミステリ大賞の候補になった『楽園とは探偵の不在なり』をはじめとするミステリーのほか、SF、恋愛小説、怪奇幻想譚など幅広い作風で魅了する斜線堂有紀さん。大の本好きでもある斜線堂さんがこれまでにはまった作家、影響を受けた作品とは? その膨大な読書遍歴の一部をお届けします。

その3「講談社ノベルスとの出合い」 (3/9)

  • 少年名探偵 虹北恭助の新・新冒険 (講談社ノベルス)
  • 『少年名探偵 虹北恭助の新・新冒険 (講談社ノベルス)』
    はやみねかおる
    講談社
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  • クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)
  • 『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)』
    西尾 維新,竹
    講談社
    968円(税込)
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  • パラダイス・クローズド THANATOS (講談社文庫)
  • 『パラダイス・クローズド THANATOS (講談社文庫)』
    汀こるもの
    講談社
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  • 『瑠璃城』殺人事件 城シリーズ (講談社文庫)
  • 『『瑠璃城』殺人事件 城シリーズ (講談社文庫)』
    北山猛邦
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――読むのは速いほうですか。

斜線堂:速いと思います。今も速いんですけれど、子供の頃はスマホとかもなくて他に気が散ることがなかったので、もっと速く読めました。すぐ読んでしまうので、母に「なるべく文字が小さくて分厚い本を選びなさい」と言われていました。
 それで、小学5年生の時に転機が訪れるんです。青い鳥文庫もほぼ読んで、いよいよ読むものがなくなってきたなという時期に、はやみね先生の『少年名探偵 虹北恭助の冒険』で講談社ノベルスの存在に気づくんですよ。たしかサティで映画を観た帰りにはじめて『虹北恭助の冒険』を買ってもらって、青い鳥文庫以外にもはやみねかおる先生の作品があるんだと知り、そこから講談社ノベルスに異常に惹かれる人生が始まるんです。
虹北恭助がすごく自分のツボだったんですよね。とにかく探偵役が格好いい。私の中で物語上の初恋は間違いなく虹北恭助です。それでシリーズを読みはじめたんですが、当時4冊までしか出ていなくて。この4冊を読み切ったら次はどうしようと思っていた時に、虹北恭助シリーズの巻末広告で大塚英志さんの『多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還』の存在を知るんです。この内容紹介がものすごく怖くて。「両手両足を切断され電解質のゼリーに浮かぶ女」とか「脳を養分として育ち咲き乱れる大輪の花」とか書かれてあって、あまりに怖すぎてそのページをカッターで切り取って処分したくらいです。でも、切り取りまでしたくせにどうしても気になって『多重人格探偵サイコ』を読んだんです。そうしたら面白かったんですよ。読むとなぜか怖くなくなるんです。むしろなんて面白いんだと思って、ということは講談社ノベルスには自分が楽しめるものがいっぱい入っているんだろうと思い、はまっていくんです。

――ノベルスではまった作家やシリーズは他になにがありましたか。

斜線堂:私が読み始めた頃はノベルスがメフィスト賞受賞作でにぎわっていて、なかでもいちばん目立っていたのが西尾維新先生の『クビキリサイクル』でした。そこから入って、とりあえずメフィスト賞作家を全部読もうと思いました。
たしか、汀こるもの先生が『パラダイス・クローズド』でメフィスト賞を受賞された頃かなと思うんですけれど、そのあたりからはリアルタイムで読んでいきました。子供ながらに舞城王太郎先生の『煙か土か食い物』の文体が格好よすぎで書き写しましたし、北山猛邦先生の『『瑠璃城』殺人事件』は本当に好きで物理トリックといえば私の中では北山先生という印象になったし、メフィスト賞作家ってみんな面白いんだと思いました。
そのなかでいちばん好きだったのが佐藤友哉先生の『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』で、文体にはまったんです。それが小学校を卒業するかしないかの頃で、正直言うと微妙に内容が理解できていなかったんですよね。主人公が復讐のために殺人をしているのは分かるけれど妹さんに何があったのかよく分かっていなかった。でも子供にも分かる文体のお洒落さ格好良さがあったんですよね。鏡稜子さんというキャラクターが出てくるんですが、セリフ回しが格好良すぎて、ノートに書き出して、自分もその通りに口調になるように努力したくらいはまってしまいました。

――言い回しを真似して言っていたんですか。

斜線堂:佐奈が「お兄ちゃんにとっての最大の不幸って何?」と訊いて、僕のテレキャスが壊れる事が最大の不幸かもと返されると、「それじゃあ、ギターが壊れるくらいの覚悟をしておいてね」って言う場面があるんです。このやり取りががやりたくて友達に同じことを訊いていました(笑)。「最悪なことって何?」って聞いて、何か返ってきたら「それくらいの覚悟をしておいてね」って(笑)。なんかもう本当に恥ずかしいですね。

――そして鏡家サーガを読み進め...。

斜線堂:鏡家サーガ全盛期で『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』まで出ていて、とにかくセリフに影響されて好きな文章を写経のように書き写していました。後から友達に「あの時こういうこと言ってたよね」と言われるのがもう全部鏡家サーガの中のセリフで、恥ずかしくて死ぬかと思いました。

――そうした文体を真似して自分で小説を書いたりもしたのですか。

斜線堂:そこには至らず。そうではなく、なぜか自分が鏡稜子そのものになろうとしていたという(笑)。その頃はまだ中二病って言葉はなかったんですけれど、小6にして中二病を発症して、「私は鏡稜子...」みたいな感じになっていました。
他にも、殊能将之先生の『ハサミ男』とか、岡崎隼人先生の『少女は踊る暗い腹の中を踊る』などを読み、ちょっとダークなミステリーに惹かれていきました。

――ご自身の中で自分はミステリーが好きだという意識はありましたか。それとも、いろいろ好きなものがある中の一部がミステリーという感じだったのでしょうか。

斜線堂:どちらかというといろいろ好きなものの中にミステリーもあったという感じで、メフィスト賞作品はミステリー的に面白いというよりは、とにかく文体や世界観が格好いいレーベルとしてとらえていました。

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