
作家の読書道 第270回:金子玲介さん
今年5月、第65回メフィスト賞を受賞した『死んだ山田と教室』を刊行するや話題を集め、鮮烈なデビューを飾った金子玲介さん。8月には第2作『死んだ石井の大群』、11月には第3作『死んだ木村を上演』を刊行と勢いにのっている。そんな金子さん、実は長く純文学の新人賞に応募していたのだとか。ではその読書遍歴と、エンタメに転向した経緯とは?
その2「伊坂さん作品は読めた」 (2/8)
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――その頃、将来なりたいものって具体的にありましたか。
金子:小学生低学年の頃は昆虫博士でしたが、その後、弁護士を目指すと言っていた時期があります。それはたぶん、「逆転裁判」にはまっていたからじゃないかな。小学校高学年だった2001年に「逆転裁判」が出てめちゃめちゃはまって、それで小学校高学年から中学生にかけては弁護士になりたいと言っていたと思います。
――ロジカルに状況を覆していく感じが快感だったから、とか?
金子:そうですね。格好よく思えたんでしょうね。読書の話にも繋がるんですけれど、私、中学生の時に伊坂幸太郎さんは読んでいたんですよ。小説はあまり読めなかったのに、伊坂幸太郎さんは親に薦められて読んだら「すごく面白いじゃん」となって。『チルドレン』という家裁調査官の陣内さんが主人公の小説を読んで、一時期、家裁調査官になりたいと思っていた時期もありました。
あと、『シバトラ』にも影響を受けました。小池徹平さん主演で連続ドラマ化もされた少年漫画です。少年係の刑事が主人公で、非行に走った少年少女の更生をサポートするような内容で。『チルドレン』も、家庭環境とかの影響で非行に走ってしまった少年少女を陣内さんが独特の語り口で光の方向に導いていくところがあるじゃないですか。そういったフィクションに当てられて、私もそういう人間になりたいなと思っていた時期がありました。
――「ハリポタ」は読めなくても伊坂幸太郎さんは読めたんですねえ。
金子:そうなんですよね。中学時代は伊坂さん、東野圭吾さん、湊かなえさんは、親か友達に薦められて読んで「面白いな」と思っていました。
伊坂さんは、『チルドレン』がテーマ的に好きで、『アヒルと鴨のコインロッカー』が仕掛けを含め鮮烈なイメージがあって好きで、あとは『ラッシュライフ』ですね。今考えても、あれはすごすぎると思うんです。デビュー作の『オーデュボンの祈り』もすごいんですけれど、2作目に『ラッシュライフ』ってのが尋常じゃなくて。
自分が新人作家になってみて分かったのは、2作目で何を書くかって、すごくプレッシャーがあるんですよ。1作目を超えるもの、なおかつ1作目の読者を手放さないものを書かなきゃいけないということで、私も2作目の『死んだ石井の大群』はめちゃくちゃ悩みながら書いたんです。伊坂さんの2作目の『ラッシュライフ』は、4人の主要人物の物語が複雑に絡み合って進行していく小説で、語りの実験性がまず面白いし、そこに「人生については誰もがアマチュアなんだよ」みたいな真っ直ぐ胸に刺さることを言う黒澤のようなキャラクターも出てくるし。
――黒澤は伊坂作品に何度も登場する泥棒で、人気キャラクターですよね。
金子:そうです。そうした魅力的なキャラクターとストーリーの面白さと実験的な試みが合わさっているんですよね。当時は「めちゃめちゃ面白れー」と思って読んでいたんですけれど、今、曲りなりにもプロの作家になって振り返ってみると、2作目であれを出すのはやばすぎるだろ、という感じです。
東野さんはやっぱり『容疑者Xの献身』がすごく好きです。ミステリとしての驚きだけでなく、ものすごくエモーショナルな物語になっているところが。東野さんの本は友達が貸してくれたのでいろいろ読んだ記憶があるんですが、やっぱり『容疑者Xの献身』の衝撃が大きくて、ベタですけれど最初に浮かびます。湊かなえさんも、やっぱり『告白』の衝撃がすごかったので真っ先に浮かびます。映画もすごく好きでした。私はミステリの歴史に詳しくはないんですが、イヤミスというジャンルを読んだのは『告白』が初めてで、特殊な体験でした。そうだ、道尾秀介さんもよく読んだ時期もありました。どれも面白かったのですが、『シャドウ』がいちばん好きです。
――部活や習い事はしていましたか。
金子:私は小中高一貫の進学校に小学校から通っていて、小学校受験をしているので、個別指導塾みたいなところには通いました。他に習い事は、もしかしたら始めたけれどすぐやめた、というものがあるかもしれませんが、あまり記憶はないです。
中学校の時は卓球部に入って、そんなに本気でやっていたわけではないんですがあまりにも下手すぎて、近所の卓球スクールに通ってみた時期はあります。
――なぜ卓球を選んだのですか。
金子:運動が苦手だけど運動部には所属していたくて、ものすごく失礼な話ですけど、卓球ならそこまで動けなくてもなんとかなるかな、と。「運動できない中学生あるある」な気もするんですけど。私が通っていたのは川崎市の桐光学園という、野球部が甲子園に行ったりサッカー部が全国大会に出たりする学校でした。文武両道を謳う進学校です。なので高校からの卓球部はガチのスポーツな感じだったんですが、中学の卓球部は温泉卓球に毛が生えたくらいのレベルだったので、運動が苦手でも一応運動部に所属しているアリバイになったというか。一部本当に上手い子もいたんですけれど周りの多くは私と同じ感じでした。甲子園とかサッカーの全国大会に行くのは、高校でスポーツ推薦組が入ってきてからなんですが、私は中学卒業と同時に別の学校に行ったので...。
――小中高一貫校だったのに高校受験で別の高校に進んだのは。
金子:本来は高校まで行ってから大学受験なんですけれど、中学の時に、大学受験したくないなと思っちゃったんですね。中学の時から大学受験を意識したカリキュラムで、毎朝テストがあったりして、それがあまり肌に合わなくて。興味が移ろいやすい子どもだったので、早めに受験勉強を卒業して、受験の枠外の勉強がしたかったんです。弁護士に興味があったので法律の勉強もしたかったし、理数系が好きだったので数学とかももっと面白い勉強をしたいなと思って。
――多くの生徒が受験せずにそのまま上に進む環境の中で、受験勉強をしていたわけですね。
金子:そうです。中2から塾に通い始めました。クラスメイトの95%は受験勉強をせずにのびのびやっているなか、私は学校の授業が終わってから塾に行ったりしていたので、中学生時代の後半は忙しかった気がします。
それで慶應の付属の慶應志木高校を受験し、高校2年生の時に国語の面白さを知って、はまっていくことになるんですけれども。
――『死んだ山田と教室』の舞台となる、変わった作りの教室がある学校ですね。通学時間が結構かかったのでは?
金子:片道1時間15分くらい電車に乗っていたので、結構本を読めたんです。高校2年生の時に、授業がきっかけで太宰治にはまって、そこから舞城王太郎さんとかに興味がのびていくんですけれど、長い通学時間が嬉しかったですね。行き帰りはずっと本を読んでいました。