第270回:金子玲介さん

作家の読書道 第270回:金子玲介さん

今年5月、第65回メフィスト賞を受賞した『死んだ山田と教室』を刊行するや話題を集め、鮮烈なデビューを飾った金子玲介さん。8月には第2作『死んだ石井の大群』、11月には第3作『死んだ木村を上演』を刊行と勢いにのっている。そんな金子さん、実は長く純文学の新人賞に応募していたのだとか。ではその読書遍歴と、エンタメに転向した経緯とは?

その4「大好きな舞城王太郎作品」 (4/8)

  • おやすみプンプン (1) (ヤングサンデーコミックス)
  • 『おやすみプンプン (1) (ヤングサンデーコミックス)』
    浅野 いにお
    小学館
    556円(税込)
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  • ボーイズ・オン・ザ・ラン (1) (ビッグコミックス)
  • 『ボーイズ・オン・ザ・ラン (1) (ビッグコミックス)』
    花沢 健吾
    小学館
    1,612円(税込)
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  • 熊の場所 (講談社文庫)
  • 『熊の場所 (講談社文庫)』
    舞城王太郎
    講談社
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  • 阿修羅ガール (新潮文庫)
  • 『阿修羅ガール (新潮文庫)』
    王太郎, 舞城
    新潮社
    693円(税込)
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  • 好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫 ま 49-6)
  • 『好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫 ま 49-6)』
    舞城 王太郎
    講談社
    638円(税込)
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  • みんな元気。
  • 『みんな元気。』
    舞城王太郎
    新潮社
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  • スクールアタック・シンドローム(新潮文庫)
  • 『スクールアタック・シンドローム(新潮文庫)』
    舞城 王太郎
    新潮社
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  • イキルキス (講談社文庫)
  • 『イキルキス (講談社文庫)』
    舞城王太郎
    講談社
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――高校時代に、いろんな小説を読み始めたわけですか。

金子:はい。それまでも漫画は好きだったので、ヴィレッジヴァンガードにはよく行っていたんです。川崎市の自宅から埼玉県の慶應志木に通う際、いつも乗り換えている駅にヴィレッジヴァンガードがあって、あの雑然とした感じがすごく好きで、吸い寄せられるように入っていって(笑)。そこで『おやすみプンプン』などの浅野いにおさん、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』などの花沢健吾さん、あとはヤマシタトモコさんや東村アキコさんといった方たちの漫画を知りました。青年コミックも読むようになって、そのなかで、舞城王太郎さんの短篇を青山景さんがコミカライズした作品が収録されている『ピコーン!』をたまたま買って読んだんですよ。それがめちゃめちゃ面白かった。原作を読んでみたくなって「ピコーン!」が収録された『熊の場所』を読み、こんな小説があるんだって度肝を抜かれました。文体がとにかく衝撃的で、こんな小説読んだことないと思わせる新しさで、そこから舞城さんの本を買い集めるようになります。
舞城さんがメフィスト賞出身であることや、『阿修羅ガール』で三島由紀夫賞を受賞していると知って、メフィスト賞とか三島賞の本をあさり始めるんですね。舞城さんと同じくメフィスト賞、三島賞を受賞されているということで、佐藤友哉さんを知ったりして。
あとヴィレッジヴァンガードで嶽本野ばらさんの本も推されていて、めちゃめちゃはまりました。嶽本野ばらさんって、文章に太宰味がある気がするんです。太宰の文章のリズム感みたいなものがインストールされているような文章だなって思っていました。同じ理由で、綿矢りささんもそのころ熱心に読みました。太宰とヴィレッジヴァンガードきっかけで、いろんなものを読むようになりましたが、メインは日本の現代文学でした。

――舞城王太郎さんで好きな作品といいますと。

金子:絞り切れないんです。『好き好き大好き超愛してる。』がめちゃめちゃ好きで、10回以上読み返しています。〈愛は祈りだ。〉という一文から始まって、作中作と言い切れないような作中作と、主軸の小説家パートがメタ的に結びついてテーマを貫いていて。あの美しすぎる構成に、読むたび惚れ惚れしています。語り手の「僕」が、死んでしまった恋人の柿緒が残した秘密はなんだったんだろうと振り返るところもすごく好きでした。うまく説明できないんですけれど、とにかくあの小説が私の中心に据わっています。
舞城さんを知るきっかけとなった「ピコーン!」ももちろん好きです。短篇集では『みんな元気。』『スクールアタック・シンドローム』『イキルキス』あたりも好きですね。近年では『私はあなたの瞳の林檎』から続く果実シリーズも好きです。というか全部大好きですね。
高校3年生になると、付属校ならではの高校教育の粋を越えた選択授業があって、社会科の先生が法律の授業をやったり、大学でやるような数学の授業があったりしたんです。そのなかで小澤先生が、「SFとロマンティシズム」というタイトルで1年間授業をしてくれたんですよ。藤子・F・不二雄先生のSF短篇や、大森望さんが編訳したSFの短篇集を扱ったりしていました。そのなかでこれまでの授業でやってきたロマンティシズムなどの概念を使って、好きな作品についてレポートを書け、という課題が出たんです。私はその時に「みんな元気。」でレポートを書きました。だから、あの短篇は本当に思い出深いです。『スクールアタック・シンドローム』に文庫書き下ろしで収録されている「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」も大好きで何回も読み返しています。
『ディスコ探偵水曜日』もめちゃめちゃ好きで深く影響を受けているんですけれど、あれはかなり長いので2回くらいしか読み返せていないんです。さまざまな探偵の推理が複数の世界を構築していって、でも結局は愛、みたいな1000枚以上の大作で。この世の全部じゃん、この小説さえあればもうそれでいいじゃん、みたいな気持ちになりました。
『淵の王』も好きです。唯一無二すぎる、と思いました。「新潮」2015年1月号初出の時に読んで感動しすぎて、当時やっていたtwitterに感想を10ツイートくらいばぁーっと書き込みました。それまでは舞城さんって、ぜんぶ一人称で、頭の中に渦巻く言葉を全部紙に落とす書き方をしていた印象があったんです。いいことも悪いことも迷いも全部いったん紙に落として、読者と一緒に正しい倫理を目指して突き進んでいこう、みたいな。だから、三人称だと「僕」や「わたし」の思考が文章と直結しないから、舞城さんには合わないし、三人称は書かないんだと思っていました。舞城さんは英米文学に造詣の深い方でトム・ジョーンズの『コールド・スナップ』を翻訳されているんですけれど、それが三人称文体で、いつもと違う印象だったので。でも『淵の王』は、「私」が「あなた」に、「俺」が「君」に、「私」が「あんた」に語りかけるという、一人称と二人称の併用文体で、舞城さんの世界認識を保ったまま他者を書いているんです。圧倒的な主観で他者を描き切るという、舞城さん固有の「三人称」が生まれた小説だ、「一人称+二人称=三人称」なんだ、これは文学史上の大事件だ、ということを大学3年の冬に、大興奮してtwitterに書いたんです。

――そのポストはSNS上に残っていますか。

金子:もう全部消しちゃったんですよね。当時は作家志望の何者でもない人間だったので、小説や演劇の感想を自由に書いていたんです。当時、ネットを通して知り合いになっていた町屋良平さんにそれを褒められたりしていました。今は新人作家になったので、あまり観たり読んだりしたものの感想をSNSに書かないようにしているんですけれど。

――さきほど挙げていらした、舞城さん以外の作家の方々の好きな作品は。

金子:佐藤友哉さんは、『1000の小説とバックベアード』が大好きです。これは鮮明に憶えているんですけれど、朝電車の中で読んでいて、面白すぎて中断したくなくて、電車を降りずに遅刻覚悟で目的地を通り過ぎた経験があります。
佐藤さんもやっぱり太宰好きというのが根っこにあって、太宰が現代に転生した『転生! 太宰治』シリーズなども書かれているんですけれど、私は初期の小説から太宰味を感じていたんですよね。そのなかで『1000の小説とバックベアード』は、小説家ではなく「片説家」という職業集団の話で、書くことや認められたいということへの自意識をこじらせた人たちが出てくる。それが小説を書きはじめたばかりの私にぶっ刺さりまして。文体の切れ味も大好きで、視覚的にも面白いんですよ。『1000の~』の終盤に一行の文字数が同じ文章をずっと続けているところがあるんですが、それは本当に文章的にも見た目的にもとんでもなく美しくて、一生忘れられないですね。
綿矢さんはやっぱり『蹴りたい背中』を読んだ時のインパクトがすごかったし、『インストール』や『かわいそうだね?』も大好きです。でも一番好きなのは、大学に入ってから読んだ『ひらいて』です。主人公は愛という派手でイケてる高校生の女の子で、たとえ君っていう男の子がすごく好きなんですよね。でも、たとえ君には美雪という、地味で病弱な彼女がいる。愛は、たとえ君に近づけないからってことで美雪と同性愛関係に発展していくんです。たとえ君が好きなのに駄目ならその彼女と、みたいな、思春期のわけが分からないエネルギーの熱暴走みたいなものが、綿矢さんの息を呑むような見事な比喩とか、痺れるような句読点の使い方で描かれた中篇なんです。『インストール』や『蹴りたい背中』もすごかったのに、まだ超えてくるんだ、という衝撃がありました。
嶽本野ばらさんは『ロリヰタ。』が一番好きで、デビュー作の『ミシン』もめちゃくちゃ好きです。とにかく心の襞に無理矢理分け入っていくような文章で、感傷を否応なしに喚起してくれるというか。私はロリータファッションにそれほど興味があるわけではないんですけれど、ここに書かれたロリータを愛する気持ちは自分のことのように体感できる。映画化された『下妻物語』もエンタメ的に大好きですけれど、やっぱり忘れられないのは『ロリヰタ。』です。

  • 私はあなたの瞳の林檎 (講談社文庫 ま 49-12)
  • 『私はあなたの瞳の林檎 (講談社文庫 ま 49-12)』
    舞城 王太郎
    講談社
    693円(税込)
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  • ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)
  • 『ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)』
    舞城 王太郎
    新潮社
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  • 淵の王(新潮文庫)
  • 『淵の王(新潮文庫)』
    舞城王太郎
    新潮社
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  • 1000の小説とバックベアード
  • 『1000の小説とバックベアード』
    佐藤 友哉
    新潮社
    1,650円(税込)
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  • 転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS サ 2-5)
  • 『転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS サ 2-5)』
    佐藤 友哉,篠月 しのぶ
    星海社
    1,540円(税込)
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  • 蹴りたい背中 (河出文庫 わ 1-2)
  • 『蹴りたい背中 (河出文庫 わ 1-2)』
    綿矢 りさ
    河出書房新社
    495円(税込)
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  • インストール (河出文庫)
  • 『インストール (河出文庫)』
    綿矢 りさ
    河出書房新社
    495円(税込)
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  • かわいそうだね? (文春文庫 わ 17-2)
  • 『かわいそうだね? (文春文庫 わ 17-2)』
    綿矢 りさ
    文藝春秋
    628円(税込)
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  • ひらいて (新潮文庫)
  • 『ひらいて (新潮文庫)』
    綿矢 りさ
    新潮社
    539円(税込)
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  • ロリヰタ。
  • 『ロリヰタ。』
    嶽本 野ばら
    新潮社
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  • ミシン missin’ (小学館文庫)
  • 『ミシン missin’ (小学館文庫)』
    嶽本野ばら
    小学館
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  • 下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん〔小学館文庫〕: ヤンキーちゃんとロリータちゃん (小学館文庫 た 1-3)
  • 『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん〔小学館文庫〕: ヤンキーちゃんとロリータちゃん (小学館文庫 た 1-3)』
    嶽本 野ばら
    小学館
    825円(税込)
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