
作家の読書道 第274回:白尾悠さん
2017年に「女による女のためのR‐18文学賞」の大賞と読者賞を受賞、翌年受賞作を含めた連作集『いまは、空しか見えない』で単行本デビューした白尾悠さん。幼い頃に自宅が図書室を開いていたこと、読書家のお姉さんの存在、大学時代のアメリカ留学、お仕事の変遷など、読書遍歴の背景には意外なエピソードがたっぷりありました!
その2「絵や映像作品も好きだった」 (2/8)
――ところで、体操を1年生から3年生まで続けていたとのことですが、3年生でやめたというのは。
白尾:うちは習い事は一度にひとつだけという決まりがあったんです。絵が好きだったので体操は3年生でやめて、油絵を習い始め、画家の方のアトリエに通っていました。そうしたら父が、祖父が譲ってくれた画集を見せてくれたんです。近代ヨーロッパ絵画がメインで載っているシリーズで、それをわーっと机の上に並べるのが好きでした。それでスーラとかエゴン・シーレとか、モネといった画家たちの作品を知りました。
イラストレーターの永田萠さんもすごく好きで、画集を持っていました。飽きるほど眺めながら頭の中でいっぱいストーリーを作っていました。
――お話を作るのも好きだったのですね。その頃、将来は何になりたいと思っていましたか。
白尾:絵描きさんか漫画家と言っていました。漫画も自分で描いてはいました。
お話を作るのも好きでした。私、小学校に上がる前にイマジナリーフレンドがいて、その子の話をずっとしていたんです。自分では想像と現実の境目がなくて本当にいると信じていて、あの子とこういう遊びをした、あの子はこういうところに住んでいる、と話していました。
小学校に上がると、怪談話ができる子が人気があったんですよね。私はそれが得意で、キャンプや林間学校に行くと怪談話をせがまれて、その場で適当にお話を作っていました。だいたい「その土地にまつわる話」という嘘をついていました。
――即興で怪談話ができるということは、怪談話のフォーマットが頭に入っていたということですよね。
白尾:どうでしょう。でも楳図かずおさんの漫画とかは読んでいたので。
――ところでイマジナリーフレンドは、どういう子だったのですか。
白尾:まりこちゃんという女の子でした。可愛い子で、自分の理想の女の子像だったのかなという気がします。でも、自分ではイマジナリーフレンドという認識がなかったんですよね。だいぶ後になって、テレビの「世にも奇妙な物語」かなにかでそういうストーリーを見ていた時に、姉が「あなたにもいたよね」と言うので「なんのこと?」って訊いたら、「え、保育園の時にいたでしょう」って。ずっとその子について話しているから、保育園の連絡帳にも「仲良しの子の話をよくしてくれます」と書かれていたそうです。母が先生に「近くに住んでいる子なんですか」と訊かれて、「そんな子いません」って。
――小学生時代、映画など映像作品にも触れていましたか。
白尾:父はハリウッド系の映画が好きで、母は文芸系の映画が好きで、両親ともに自分が観たい映画しか連れて行かないので、わりと子供向けかどうかは関係なく観に行っていました。80年代だったのでスピルバーグ、ルーカス、ゼメキスあたりの映画は全部、家族と映画館で観ました。母と観た映画で印象に残っているのは、「愛は静けさの中に」。ウィリアム・ハート演じる男性とマーリー・マトリン演じる聾啞者の女性との恋愛の話で、マーリー・マトリンは本当に聾の方なんですよね。いま思うとセックスシーンもあったんですが、映倫が厳しくなかったのか、子供でも普通に観てました。
子供向けでいうと、「ラビリンス/魔王の迷宮」はデヴィッド・ボウイとジェニファー・コネリーが美しかったなとか、ゴブリンが気持ち悪かったな、という記憶があります。「オズ」も印象に残っていて、わりとダークで怖かったんです。それは『オズの魔法使い』の続篇が下敷きなんです。冒険から戻ってきたドロシーがオズの国の話をしても誰も信じてくれなくて、頭がおかしくなったと思われて病院に連れていかれるんですよね。そこでは他の子がロボトミー手術を受けていたりして。そこからまたオズの国に戻るんですが、出てくる魔女が首がなくて、毎回好きな首を選んでつけているんです。魔女が集めた首がわーっと並んでいるシーンは、綺麗だけれどめっちゃ怖かったです。
「ネバーエンディング・ストーリー」もエンデの『はてしない物語』が原作と知らずに観ました。ほかには「ポルターガイスト」なんかも憶えていますね。
それと、ジブリの映画も、映画館で観られるものは全部観ました。いまでも忘れられないのが、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」の2本立て。先に「火垂るの墓」を観てボロ泣きしながら「節子...!」と思っていたら、「♪トットロ、トットロ~」って(笑)。あの落差の衝撃は忘れられないです。
あとは、テレビの「ヒッチコック劇場」や「ジェシカおばさんの事件簿」がすごく好きでした。SFでは、「V(ビジター)」というドラマシリーズを姉とレンタルして完走しました。ある日人間そっくりの宇宙人が飛来して、という話です。本来彼らは爬虫類系の顔をしているんですけれど、人間の仮面をかぶっているんです。美女がネズミを丸呑みするシーンがあって、それが有名です。
――学校で小学校受験した児童が多かったということは、中学受験する生徒も多かったのですか。
白尾:そうですね、当時でも1/4くらいいました。仲がいい子が中学受験のために塾通いしていたので、私も6年生の2学期にちょっと入ってみたりもしました。塾の先生には「こんなタイミングで入る子はいない」と言われました。友達の親御さんから「うちの子は受験するから一緒に遊ばないでほしい」と言われたりして、ちょっと嫌な思いをしました。