作家の読書道 第280回:城山真一さん
2015年に『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』で第14回このミステリーがすごい!』大賞を受賞、その後ドラマ化もされた『看守の流儀』などで、ミステリーと人間ドラマを融合させてきた城山真一さん。小学生の頃はあまり小説を読まなかったという城山さんが、その後どんな作品と出会い、小説家を志すことになったのか。小説以外の好きなものも含めて、たっぷりおうかがいしました。
その3「高校時代にはまった漫画」 (3/9)
――では、高校時代はいかがでしたか。
城山:中高と部活は一応ソフトテニスをやっていたんですけれど、打ち込んだわけではなく、だいたい学校帰りは書店に入り浸っていました。相変わらずテレビは民放2局でFMもNHKしかない状態でしたが、やっぱり知識欲や好奇心はあるので、それを満たしてくれる書店やレコードショップの存在は大きかったですね。
お小遣いに限りはあるので立ち読みすることもありましたけれど、高校の時も「ジャンプ」と「サンデー」は読んでいました。高校の時に読んだ漫画でいちばん印象深かったのは、中央公論社が出していた藤子不二雄の『まんが道』で、分厚い辞書みたいな愛蔵版でした。それを読んだのをきっかけに、『藤子不二雄SF全短篇』全3巻も読みました。1巻は『カンビュセスの籤』で、2巻が『みどりの守り神』で......。これも手元にあるんですよ。どれもブラックな話ばかりで、ミステリー要素もあったりして。『ドラえもん』などの子供向け漫画を描いている巨匠のイメージが全然なく、ややもすると手塚治虫さんよりもディープな感じがありました。これは繰り返して読みました。
他にこの頃で印象に残った漫画は、『めぞん一刻』『冬物語』『ろくでなしBLUES』『湘南爆走族』。このあたりが好きでした。
小説でいうと、高校に入っても赤川次郎さんはずっと好きで、いろんな作品を読んでいました。特に印象に残っているのは「三毛猫ホームズ」シリーズと、『ふたり』です。『ふたり』は中嶋朋子さんと石田ひかりさんで映画になっていて、映画も小説の世界観をちゃんと表現できていたのがすごいなと思って。あと、大林宣彦監督のエンドロールの歌がなんともいえない、いい雰囲気が出ていました。この映画は今でも時々観たくなります。それと、僕のなかで当時衝撃だったのは、『魔女たちのたそがれ』『魔女たちの長い眠り』という2作品です。これはホラーチックな終わり方で、そういう作品を読んだことがなかったので、この不穏な感じはすごいな、と印象に残りました。
赤川次郎さんは6年前にKADOKAWAのパーティーでお会いした時に、20年前に発売された『ふたり』の単行本を持って行って、サインをいただきました。これは家宝といってもいいくらいの宝物で、作家になってよかったことのベスト3に入ります(笑)。今も部屋に飾ってあります。
赤川次郎さんには読むほうだけでなく、書くほうでも御縁があるんです。高校生だった当時、学研主催のコース文学賞という高校生を対象にした小説のコンテストがあって、赤川次郎さんが審査員だったんです。高校2年生の時にはじめて書いた小説を応募したら、なんと特選をいただいて。自分が中学生の時に読書に目覚めるきっかけとなった赤川次郎さんが審査員の賞で入選したことが本当に嬉しかったですね。特選を取った人は何人かいて、たしか高校3年生の時にそのメンバーでアンソロジーを作るという依頼がきたんですけれど、自分は大学進学を目指していて勉強しなくちゃいけなくて断ったんです。でも、自分はもしかしたら小説が書けるのかな、いつかタイミングがきたら小説を書こうと考えたのは、赤川次郎さんから賞をいただいたこの時でした。
――応募作は、どういう小説だったのですか。
城山:SFですね。藤子・F・不二雄さんの影響を受けたんじゃないかと思います。自分ならこんなことを思いつくぞ、みたいなことを書いたのは憶えています。
――ほかに、高校時代に読んだ本で印象に残っているものは。
城山:夏目漱石は昔の難しいザ・小説という印象で苦手に感じていたんですが、2年生の時に『こころ』を読んで、あ、これは違うなと思って。人間の純粋さがストレートに表現されていて、胸打たれるものがありました。『こころ』というタイトルも格好いいなと思いました。
3年生になると、受験が迫ってきたので、本を読まない時期が長かったです。僕は地元の石川県にある金沢大学に進学したんですが、一次試験がセンター試験で、二次試験が記述だったんです。その二次の記述は英語と国語と数学のうちふたつを選択するシステムで、当時の担任だった国語の先生から、「あなたは国語の模擬試験で、時々突拍子もないことを解答に書いて点数を下げることがあるから、安定している英語と数学で受けなさい」と言われました。確かにその通りで、僕、国語のテストの点数がすごくいい時と悪い時があったんです。人と違う解釈をしていたんでしょうね。しかし、こんな人間が今は小説を書いているというのは、どうなんでしょう(笑)。
3年生の頃は、あまり小説は読まなかったけれど、気分転換で音楽をよく聴いていました。氷室京介とかCOMPLEXとかZIGGYとか。二次試験の直前なんかは、朝の目覚まし代わりに徳永英明さんの「壊れかけのRadio」をよく聴いていました。歌詞がそのときの自分の年齢や置かれている状況と重なっているような気がして、すごく胸に沁みたのを覚えています。











