第280回:城山真一さん

作家の読書道 第280回:城山真一さん

2015年に『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』で第14回このミステリーがすごい!』大賞を受賞、その後ドラマ化もされた『看守の流儀』などで、ミステリーと人間ドラマを融合させてきた城山真一さん。小学生の頃はあまり小説を読まなかったという城山さんが、その後どんな作品と出会い、小説家を志すことになったのか。小説以外の好きなものも含めて、たっぷりおうかがいしました。

その5「20代の読書、アマチュア劇団、6回の転居」 (5/9)

  • 黄昏流星群: 不惑の星 (1) (ビッグコミックス)
  • 『黄昏流星群: 不惑の星 (1) (ビッグコミックス)』
    弘兼 憲史
    小学館
    715円(税込)
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  • ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
  • 『ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)』
    春樹, 村上
    新潮社
    737円(税込)
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  • 文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫 き 39-4)
  • 『文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫 き 39-4)』
    京極 夏彦
    講談社
    1,738円(税込)
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  • 文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫 き 39-1)
  • 『文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫 き 39-1)』
    京極 夏彦
    講談社
    1,012円(税込)
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  • 文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫 き 39-2)
  • 『文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫 き 39-2)』
    京極 夏彦
    講談社
    1,650円(税込)
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  • 文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫 き 39-5)
  • 『文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫 き 39-5)』
    京極 夏彦
    講談社
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  • 不夜城 (角川文庫)
  • 『不夜城 (角川文庫)』
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――では、卒業して、就職されて。

城山:20代で印象深かったことはふたつあります。ひとつはアマチュア劇団に入って役者をやったこと。もうひとつは、6回引っ越ししたことです。
もともと大学に入った時に、劇団に入るかESSに入るか迷った末にESSを選んだんです。社会人になってから、やっぱり一回は役者をやってみたいなと思って。金沢にはアマチュア劇団がいくつかあったので、いろいろ調べてそのなかのひとつに所属しました。演劇集団キャラメルボックスの「銀河旋律」という戯曲を使わせていただいた時は主役もやりました。他に印象深かったのは、金沢に新しい劇場を作る際に杮落しで文学座が西川信廣さん演出でシェークスピアの「夏の夜の夢」をやることになり、地元俳優と共演するということでオーディションを受けたら合格してしまいまして。文学座のその公演に役者として舞台に立たせていただきました。でもそうした劇団活動から得たものは、自分は集団でものづくりをすることには向かないなということと、役者の才能はないなということでした。
表現することは好きだけれど、もう劇団はいいかなという気持ちになりました。やっぱり集団活動には向いていないな、と思った時に、消去法的なんですけれど、小説だったら脚本、演出、役者、衣装道具、全部一人でやって誰にも文句言われないなあと思って。なにかを表現したいのだったら、あとは小説しかないなという、最後の選択肢をここで決めた時期でもあったかと思います。
ただ、劇団活動が小説を書く上で役立った部分もあります。小説って、書いていると主人公の思いを中心に考えてしまうんですけれど、劇団だと端役にもいろんな人がいて、それぞれが自分の立ち位置とか、自分はどういう思いでここにいるかということを、みんなすごく真剣に考えているんです。なので僕は、小説を書く時も、出てくる場面は少ない人物でも、どういう思いで今この台詞を言っているのかなどを大事にしないといけないと、気にしています。

――20代の頃、映画など、他に影響を受けたなと思うものはありますか。

城山:映画だと「陰謀のセオリー」「セブン」「スターウォーズ ジェダイの復讐」「フェイス/オフ」とか。特に「ジェダイの復讐」はすごく感動して、何回も観返しました。小説を書く上で勉強にもなったのは「フェイス/オフ」で、これは構成とか伏線のはり方などが、物語作りの参考になるなと思いましたね。

――漫画や小説はいかがですか。

城山:漫画雑誌では「ビッグコミックオリジナル」を愛読するようになり、弘兼憲史さんの『黄昏流星群』が好きで、これは今も読み続けています。
この頃から小説を読む量が増えていきました。大学生の頃、小説は勉強のために読むものだというハードルを感じていたんですけれど、社会人になって、もう本当に好きなものだけを読めばいいんだ、という感じになってきたんです。純文学系の難しい話はあまり読まなくなって...と言っても、人生ではじめてズシンときたのは村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』なんですけどね。
20代中盤の頃にはまったのは京極堂シリーズです。僕は第4作の『鉄鼠の檻』を最初に読んでしまったんです。地元の書店に行ったら平積みのところにとんでもない分厚い本ががーっと積まれてあって、いわゆるレンガ本のこれはなんだろうと手に取ったのが京極夏彦さんの『鉄鼠の檻』で。それを読んでから、第1作の『姑獲鳥の夏』から読み始めていきました。シリーズの中では『魍魎の匣』と『絡新婦の理』がお気に入りですね。『魍魎の匣』は怪しい研究所が出てきたり、匣の隙間を詰めたりというマニアックさが、なんかすごく分かる感じもあったし、『絡新婦の理』は、僕の中では構成のインパクトがすごくて。あのアクロバットな構成に舌を巻きました。

――それにしても、20代で6回も引っ越されたのですか。

城山:東京に住んだ時期も2年あります。当時、西武新宿駅からアルタ方面の道を通勤の乗り換えに通っていたんですけれど、西武新宿駅ってすぐ隣が歌舞伎町なんですよね。それもあってか歌舞伎町が舞台の小説が好きでした。桐野夏生さんの「ミロ」シリーズとか、馳星周さんの『不夜城』シリーズとか、藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』とか、村上龍さんの『イン・ザ・ミソスープ』も。このあたりは僕の中で歌舞伎町シリーズと名付けています。どれもインパクトがあって今も読み返します。いちばん好きなのはやっぱり『テロリストのパラソル』かな。
他には、まだ東野圭吾さんが今ほどものすごい有名人気作家ではなかった頃の、本格の匂いがプンプンするような作品が好きで。『どちらかが彼女を殺した』なんかが本当に好きで。

――手がかりがすべて作中にあって、読者が謎解きするタイプの小説ですよね。

城山:結局僕は真相が分からなくて、最終的には西上心太さんの解説を見て分かったんですけれど。その一方で、東野さんの『毒笑小説』や『怪笑小説』も面白くて、こんなのも書かかれるんだなとびっくりして。あと東野さんでは江戸川乱歩賞受賞作の『放課後』も好きでした。この頃は江戸川乱歩賞受賞作を乱読していましたね。真保裕一さんの『連鎖』、桐野夏生さんの『顔に降りかかる雨』、野沢尚さんの『破線のマリス』、さきほど言った『テロリストのパラソル』とか。
京極堂シリーズ、東野さん、桐野さんが基本ローテーションで、そこに村上春樹さんが入ってくるというのが、20代の頃の読書でした。
東京にいた頃は、だいたい休みの日は紀伊國屋書店新宿本店に入り浸りでした。一流の書店とはこういうものかと感動したのが、文庫の棚に行くと、新刊が並んでいるだけじゃなくて、書店員さんが売りたい本を並べているのがすごく伝わってくるんです。阿佐田哲也さんの『麻雀放浪記』が、新刊でもないのに「この本は面白いんです」という感じでどどーんと並んでいて、これを売りたいんだなと分かったのでじゃあ買いましょうという感じで、それまで阿佐田哲也さんに興味があったわけでもないのに買い、結局全巻読破しました。書店というのは書店員さんの思いで本を並べているんだなとはじめて感じたのが、紀伊國屋書店新宿本店でした。それ以来、書店に行くと、棚を見ながら書店員さんの熱というものを自分で勝手に推しはかったりします。

――プロレスは相変わらずお好きだったわけですよね。

城山:東京にいた頃にちょうど東京ドームの高田延彦vsヒクソン・グレイシーのリベンジマッチを見に行き、高田が負けてしまって。あまりのショックに後楽園の駅でしゃがみこんでしまって友達に介抱されたこともありました。それと、小川直也と橋本真也のガチンコマッチも東京ドームで、生で見て震えました。あの、シナリオなのかそうじゃないのか分からない不穏な感じこそ、まさに新日本プロレスだなっていう。

――東京以外では、どんなところにお住まいだったのですか。

城山:北陸地方をいくつか。30歳くらいになって金沢に戻ってきて、そこからはずっと金沢です。でも今思えば、いろんなところを回ってきたことはいい経験になっていますし、執筆にも役立っています。たとえば一昨年出した『狙撃手の祈り』という作品は東京の十条を舞台にしていますが、それは暮らしていた時の記憶が残っていたからです。

  • テロリストのパラソル (講談社文庫 ふ 45-1)
  • 『テロリストのパラソル (講談社文庫 ふ 45-1)』
    藤原 伊織
    講談社
    681円(税込)
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  • イン・ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫 む 1-9)
  • 『イン・ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫 む 1-9)』
    村上 龍
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  • どちらかが彼女を殺した 新装版 (講談社文庫 ひ 17-37)
  • 『どちらかが彼女を殺した 新装版 (講談社文庫 ひ 17-37)』
    東野 圭吾
    講談社
    836円(税込)
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  • 毒笑小説 (集英社文庫)
  • 『毒笑小説 (集英社文庫)』
    東野 圭吾
    集英社
    770円(税込)
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  • 怪笑小説 (集英社文庫)
  • 『怪笑小説 (集英社文庫)』
    東野 圭吾
    集英社
    638円(税込)
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  • 放課後 (講談社文庫 ひ 17-1)
  • 『放課後 (講談社文庫 ひ 17-1)』
    東野 圭吾
    講談社
    704円(税込)
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  • 連鎖 新装版 (講談社文庫 し 42-28)
  • 『連鎖 新装版 (講談社文庫 し 42-28)』
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    講談社
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  • 新装版 顔に降りかかる雨 (講談社文庫 き 32-8)
  • 『新装版 顔に降りかかる雨 (講談社文庫 き 32-8)』
    桐野 夏生
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  • 破線のマリス (講談社文庫 の 11-1)
  • 『破線のマリス (講談社文庫 の 11-1)』
    野沢 尚
    講談社
    680円(税込)
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  • 麻雀放浪記 1 青春篇 (文春文庫 あ 7-3)
  • 『麻雀放浪記 1 青春篇 (文春文庫 あ 7-3)』
    阿佐田 哲也
    文藝春秋
    1,600円(税込)
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  • 狙撃手の祈り (文春e-book)
  • 『狙撃手の祈り (文春e-book)』
    城山 真一
    文藝春秋
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