 
作家の読書道 第280回:城山真一さん
2015年に『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』で第14回このミステリーがすごい!』大賞を受賞、その後ドラマ化もされた『看守の流儀』などで、ミステリーと人間ドラマを融合させてきた城山真一さん。小学生の頃はあまり小説を読まなかったという城山さんが、その後どんな作品と出会い、小説家を志すことになったのか。小説以外の好きなものも含めて、たっぷりおうかがいしました。
その8「最近の読書と自作について」 (8/9)
 
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	- 『狙撃手の祈り (文春e-book)』
- 城山 真一
- 文藝春秋
 
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- Amazon
 
――デビュー後、執筆生活に変化はありましたか。
城山:デビュー前から小説を書いていたので、書くという意味では生活に変化はなかったです。プロデビューしてからターニングポイントになったのは『看守の流儀』ですね。出来上がった時に編集者に「これは絶対に売れます」と言われて「そうかな?」と思って。実際最初はそうでもなかったんですけれども、3か月ほどたって急に売れ出して。いろんな書評家の方も取り上げてくださって、Amazonのミステリー・サスペンス部門で1位にもなって、ドラマにもなって、本当にありがたかったです。
――石川県の加賀刑務所を舞台に、刑務官と受刑者が遭遇する事件が描かれます。連作で各短編の主人公は異なりますが、どれも火石という刑務官がキーパーソンとなっている。
城山:これを書く時に参考にしたのは、清田浩司さんの『塀の中の事情』、堀江貴文さんの『刑務所なう。完全版』、新紀元社の『図解 牢獄・脱獄』、あとは『パリ・サンテ刑務所 主任女医7年間の記録』などですね。
その次に『ダブルバインド』という本格警察小説を書いて大藪春彦賞の候補にもなったんですが、この時に徹底的に警察やマスコミの勉強をしました。一度しっかり勉強しておくと土台ができるので、警察モノもいろいろ書きたいなという気持ちが出てきて、それで元々興味のあった國松長官狙撃事件から着想を得た『狙撃手の祈り』を書きました。この時は『警察庁長官狙撃事件:真犯人"老スナイパー"の告白』という新書を参考にしました。
――参考文献以外の読書では、どのように本を選んでいますか。
城山:直木賞候補になったものはなるべく読むようにしています。「オール讀物」で選評を見るのが結構好きなんです。ある意味答え合わせ的なところがあって面白いし、勉強にもなるなと思って。選評に「文章が美しい」とか、逆に「ここが入り込めなかった」と書かれてあると、自分の考えと比較して、ここは一緒だなとか、そうは思わないけど自分はまだまだ気づかない、実力不足だからかなとか思ったりしますね。本屋大賞作品も読みます。僕の中では町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』が印象深いです。未来屋小説大賞で『看守の流儀』が2位だった時、1位が『52ヘルツのクジラたち』だったこともあって(笑)。
ここ数年で僕がいちばん面白かったと思うのは、小川哲さんの『君のクイズ』。長編作品としては短いのに、ものすごく面白い。テーマもひきこまれました。
――クイズ番組の決勝で、対戦相手が問題の内容を聞かないうちに回答して正解したのはなぜか、という話です。
城山:最近は本を読んでも内容を忘れてしまうことも多いんですが、あの小説は忘れません。
ノンフィクションでは、鈴木忠平さんの『嫌われた監督』。中日ドラゴンズ監督時代の落合博満さんのことが書かれてあるんですけれど、文章描写が小説的で、緊張感がずっと漂っていて、すごい作品だと思います。
最近の作品ではないですが、改めて今読んでみて、やっぱり藤沢周平の時代小説は素晴らしいなあって。印象深いのは『彫師伊之助捕物覚え』シリーズと『蝉しぐれ』、短編では「雪明かり」と「驟り雨」。特に「雪明かり」は世界観が好きすぎて、夜に一人で朗読することもあります。『蝉しぐれ』と「雪明かり」は長篇と短篇の違いがありますけれど、どちらもラブストーリーとしての傑作で、いつか自分もこういうものを、現代を舞台にして描きたいです。
――海外小説は読みますか。
城山:外国のミステリーもときどき読みます。陳浩基『13・67』、ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』。このふたつが僕は好きですね。
最近のものだと、フリーダ・マクファデンの『ハウスメイド』が面白かったです。映画もよく観ますけれど、最近では「でっちあげ」と「金子差入店」というのが面白かったです。漫画だと極道漫画の『ドンケツ』とか、僕、ジャズが好きなので、『BLUE GIANT』シリーズを継続して読んでいます。漫画に関しては、出るたびに読むのではなくて、1年か2年分ためて、ドーンと大人買いして一気読みする感じです。
――ジャズがお好きなんですね。
城山:ビル・エヴァンスやジョン・コルトレーンはよく聴くし、最近のものだとサマラ・ジョイ、Laufey(レイヴェイ)を聴きます。執筆中は今挙げたアーティストの曲をずっとかけています。日本のアーティストだと、Hゼットリオ、フォックス・キャプチャー・プランが好きで、どちらもわりとエレガントなジャズです。この2組の曲は執筆の合間に聴く感じです。Hゼットリオはつい最近も金沢に来たのでライブに行ってきました。
執筆の気分転換として、少し部屋を暗くしてジャズを聴きながら画集を眺めたりします。お気に入りは『池永康晟作品集 君想う百夜の幸福』です。ほかには版画家の川瀬巴水の画集とかも。実は絵本も好きで、ヒグチユウコさんの『いらないねこ』とかも眺めたりするとリラックスできます。
――一日のルーティンは決まっているのですか。
城山:ジョギングと筋トレを日課にしています。たいてい夕方に走るんですが、今日はこのインタビューの前に5キロ走ってきました。小説家って机に向かう時間が長くメタボになりやすいと思うので、そうならないように気をつけています。どんな仕事でも身体を鍛えないといい仕事はできないと思っています。筋トレは、前はジムに通っていたんですが、行き帰りで時間をロスするので、走った後に家で腹筋や背筋をやるようになりました。小説を書くための時間というのは特に決めていないのですが、無駄に時間をロスしないようにどういう方法がいいのか常に模索しています。



















