作家の読書道 第281回:方丈貴恵さん
2019年に『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビューを果たした方丈貴恵さん。緻密な本格ミステリにSF要素をかけ合わせたり、犯罪者御用達ホテルを舞台にしたり、アウトローな探偵役を登場させたりして楽しませてくれる、独自の作風の源泉はどこにあるのか。読書遍歴や影響を受けたものについておうかがいしました。
その3「映画にもはまる」 (3/9)
――小説以外に映画やアニメなど、好きだったりはまっていたりしたものはありますか。
方丈:子供の頃から長期的に好きなのは、やっぱり映画ですかね。小さい頃から観ています。特にアクション映画やサスペンス映画については、かなり観ているほうじゃないかなと思います。
親が映画好きだったこともあり、小さい頃から映画館に連れていってもらっていたんです。最初に観に行ったのはたぶん「フック」ですね。大人になって昔の記憶をなくしたピーター・パンが、ネバーランドに戻ってきてフック船長と対決する話です。それと、「バットマン リターンズ」。これは映画初心者の子供向けではなかったこともあり、ティム・バートン監督の独特の世界観にトラウマ級にショックを受けました。観ている間、あんまり私が呆然としていたので、親もちょっと笑ってしまったそうです。でも、なんだかんだいってその後、「バットマン」シリーズは新作映画が出るたびに必ず観るようになりました(笑)。今もオールタイムベストに「ダークナイト」を入れるくらい好きです。
映画の影響は大きいですね。中学生になるまでは自分が映画好きということも自覚せずに、家族が観るものを一緒に観るくらいだったんですけれど、中学生になって好みや自我が確立されてきました。その頃からアクション映画が好きで、「ハムナプトラ 失われた砂漠の都」とか「マトリックス」とかにはまっていましたね。映画館でパンフレットを買って帰ってきて、ボロボロになるまで何回も読み返していました。たしか、「仮面の男」にはまったのも中学生時代だったんじゃないかな。これはアレクサンドル・デュマによる『三銃士』の続篇を翻案して映画化した作品です。
当時はまだ配信もなく、映画が簡単に観られる時代ではありませんでした。そのため、『映画を観る』ということ自体が貴重な経験でした。映画館でも1分も1秒も見逃したくないと必死になっていましたね。当時もVHSのレンタルや販売がありましたが、画質がよくなかったので、映画館で観るのとはやっぱり別物でした。
――部活はなにかされていましたか。
方丈:中高は美術部でした。格好つけて油絵を描いていたんですけれど、コンクールなどに出品することもなく、趣味として静物画や風景画をのんびり描いていました。
――高校時代はいかがでしたか。
方丈:高校時代が読書という意味ではいちばん薄い時期だった気がします。でも、平凡社が出していた『西遊記』の分厚い上下巻を知り合いから借りて、そのままはまって何度も読み返していた時期もありました。道教と仏教が入り混じった不思議な世界観が独特で面白かったし、孫悟空のヒーロー的な立ち回りと活躍が楽しくて。
それと、当時は講談社文庫の『封神演義』も読んでいました。だいぶ翻案された作品だったことは後から知ったのですが。それを原作にした漫画版『封神演義』も読んでいます。その時期に京極夏彦先生の『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』や『巷説百物語』も読んでいたのですが、思い返してみると高校時代、そこまで読書に熱くはまっていた記憶がないんですよね。
――それは受験勉強が忙しかったから、とかですか。
方丈:受験で心の余裕がなくなっていたことと、気持ちが映画寄りになっていたことがあると思います。観るのは洋画が多かったですね。当時は「スクリーン」とか「ロードショー」といった映画雑誌があって、私は主に「スクリーン」を買って情報を仕入れていました。
――とりわけ好きな監督や俳優はいたのですか。
方丈:高校生の時にもっとも夢中になった映画は「ロード・オブ・ザ・リング」でした。特に1作目は数えきれないくらい観返した記憶があります。「少林サッカー」や「オーシャンズ11」も好きでした。でも高校の頃って、あまりエンタメをガッツリ楽しんでいた記憶がないんですよね。やっぱり、心の余裕がなかったのかもしれません...。
好きな俳優はたくさんいますが、大学生の頃くらいには「ジョニー・デップ、ジェラルド・バトラー格好いい!」とか言っていた記憶があります(笑)。「ダークナイト」や「インセプション」を観てからは、クリストファー・ノーラン監督の作風にはまっていきました。





