作家の読書道 第281回:方丈貴恵さん
2019年に『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞しデビューを果たした方丈貴恵さん。緻密な本格ミステリにSF要素をかけ合わせたり、犯罪者御用達ホテルを舞台にしたり、アウトローな探偵役を登場させたりして楽しませてくれる、独自の作風の源泉はどこにあるのか。読書遍歴や影響を受けたものについておうかがいしました。
その6「ようやく気づいたSFの魅力&ゲーム三昧の日々」 (6/9)

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――大学卒業後は、就職されたわけですね。
方丈:そうです。自分は研究の道は向いてないので、サラリーマンになるぞと頑張って卒業して、ゲーム会社に入りました。営業・事務系のお仕事で、そこで9年くらい働いていました。
――社会人になってからの読書生活は。
方丈:霞流一先生の『夕陽はかえる』や都筑道夫先生の『なめくじに聞いてみろ』に触れて、こういうタイプのミステリもあるんだと、新しい好みに開眼したりしていました。貴志祐介先生の『悪の教典』も面白かったですね。
横溝正史先生の作品も改めて読んでみたところ、文体が馴染むというか、なぜか実家に帰ってきたように落ち着いて、読んでいる間すごく幸せでした。特に『本陣殺人事件』が好きでした。
それと、子供の頃に鬱エンドしかないと思い込んでいたSFも、古典のものを読んでみたら、SFはそんな狭いものじゃないんだと初めて気が付いて、いろいろ読みはじめました。
――SFはどのあたりを読まれたのですか。
方丈:私のデビュー作の『時空旅行者の砂時計』にも出てきた、アルフレッド・べスターの『虎よ、虎よ!』とか『分解された男』(『破壊された男』の邦題もあり)とか、ロジャー・ゼラズニイの『伝道の書に捧げる薔薇』とか。SFは短篇集がわりと好きですね。SFの作家さんて短篇だと、ちょっと哲学的だけどナンセンスで他にない読み味の話をほうり込んでくれる時があるんですよ。そういう短篇も大好きです。自分もショートショートを書く時には、奇想天外さとナンセンスさが混じった楽しい雰囲気のものを書きたいと思っているので、そうしたSF短篇を理想にしていますね。
他にも、ジャック・ヴァンスの連作短篇集の『宇宙探偵マグナス・リドルフ』はめちゃくちゃ好きですね。これは作品自体は古いんですけれど、わりと近年になって邦訳が出たものです。あとはハーラン・エリスンの『世界の中心で愛を叫んだけもの』にも凄みを感じて震え上がりました。
――ファンタジーは読んでいましたか?
方丈:ハヤカワFT文庫を読んでいた時期もあったんですけれど、結局、SFを読みだしてからはそっちのほうが楽しいと感じるようになりました。
SFって一言でうまく表せないんですよね。それがセンスオブワンダーっていうものなのかもしれないんですけれど、自分の中で固定概念と化しているものとはまったく違う、別の可能性を見せてもらえる感じがして。なんというんでしょう、私たちがいる現実とは似て非なる世界とか、この現実の世界で私たちが縛られているルールの外にあるものを見させてもらえるというか。しかも、それらが直接脳にぶち込まれるような感覚まであって。これは他のジャンルにない読み味なんですよね。もちろん、脳に入ってくる情報量もすごいんですけれど、その情報量の多さからくる快感みたいなものもあって虜になってしまいます。
それと、海外SFの古典を好きになったもうひとつの理由に、一作家一ジャンルと言いたくなるくらい、唯一無二の読み味のあるものが多かったからというのもあります。
――ところで、お仕事のほうは大変でしたか。
方丈:最初はキャラクターライセンス、たとえば海外で攻略本を発売する時に許諾を出す営業系の仕事をしていました。その後、商標や著作権を管理する部署に異動しました。
その頃は業界研究という大義名分のもと、ゲームを買い放題、やり放題で楽しんでいました。人生でいちばんゲームをやっていた時期なんじゃないかな。誰も止める人はいないし、散財の罪悪感もない。結構楽しくやっていました。
――どんなゲームがお好きだったんですか。
方丈:ゲームは大学の頃に始めて、その時は「逆転裁判」とか「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」などをやっていて、卒業後はアクションやオープンワールド系がメインでした。「デビルメイクライ」シリーズとか、「バイオハザード」シリーズとか、「アサシン クリード」シリーズとか。近年のベストは「龍が如く8」と「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」です。
ゲームもかなり創作の参考になっています。「龍が如く」シリーズはごく一部しか遊べていないんですけれど、『アミュレット・ホテル』の主人公の名前を決める時に、自分の中でいちばん男らしくてワイルドだと思う名字にしようと考えた結果、「龍が如く」の主人公の桐生さんが思い浮かび、そこから名字をいただきました(笑)。
――そうだったんですか(笑)。
方丈:多分、誰も気づいていないと思います。
「龍が如く」シリーズは社会のルールから外れた人がたくさん出てきてアクションも派手なので、『アミュレット・ホテル』を書く時には、「龍が如く」や「ジャッジアイズ」のことを思い出しながら書いていたりしました。
映画だと2時間や3時間観たら終わりですけれど、ゲームは100時間以上かけることもあるし、ゲームの世界をうろうろしていろんな場所に行けるので没入感がすごいんですよね。小説を書く時も、ゲームは脳内でイメージをわかせるための参考になっていると感じています。









