作家の読書道 第282回:友井羊さん
2011年に少年が原告となるリーガルミステリ『僕はお父さんを訴えます』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年同作を刊行しデビューした友井羊さん。 その後『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズをはじめ料理ミステリで人気を博し、かと思えば実際の冤罪事件を扱った骨太な作品『巌窟の王』を発表。硬軟自在の作風はどのようにして生まれたのか。その読書遍歴や小説家になった経緯をおうかがいしました。
その1「「週刊少年ジャンプ」にどっぷり浸かる」 (1/9)
――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
友井:物心ついた頃に読んだ、家にあった絵本の記憶がいちばん古いと思います。特に印象に残っているものは、『カラスのパンやさん』。見開きにいろんなパンがずらっと並んでいるシーンが美味しそうだったのをすごく憶えています。
それと『とうもろこしおばあさん』という、ネイティブアメリカンの民話をもとにした絵本があって。だいぶ強烈な作品でした。一人のおばあさんを村の若者が家に泊めてあげたところ、おばあさんがすごく美味しいパンを焼いてくれるんです。パンを作っているところは見ないでくれと言われるけれど、こっそりのぞいたら、おばあさんが服をたくし上げて、腿をガリガリかいていて、そこからとうもろこしがぽろぽろ零れ落ちている。おばあさんはとうもろこしの精霊らしくて、自分を殺して髪をつかんで焼いた野原で引きずり回してくれと言うんです。その通りにしてみると、焼野原がやがてとうもろこし畑になる。おばあさんを引きずり回す場面も描いてあるので、強く心に残っています。身体の一部が食べ物になるという神話は結構あるので、その類型のひとつだと思います。
――家に本はたくさんあったのですか。
友井:絵本もありましたし、歴史の漫画の全集みたいなものがあったので小学生の頃に読んでいました。夏目漱石の本などもありましたし、本に関しては恵まれているほうだったと思います。
――本を貸しあうようなごきょうだいはいらっしゃったのですか。
友井:兄がいますが、僕のほうが内向的で比較的本を読む子どもでした。でも基本的には、僕も子どもの頃は小説はほとんど読まず、漫画ばっかりでした。小3か小4の時に「週刊少年ジャンプ」を読み始めたんです。「ドラゴンボール」はもう連載していて、ちょうど「SLAM DUNK」や「幽遊白書」の連載が始まる頃だったかな。いわゆるジャンプ全盛期にどっぷり浸かっていました。
――自分でも漫画を描いたりされましたか。
友井:落書き程度はしていました。よく学校などで将来の夢を聞かれますけれど、僕は「漫画家になりたい」と答えていました。ちゃんと描いてはいなかったんですけれど。中学くらいから大学卒業するくらいまではずっと漫画家志望でした。
――では、物語を空想したり、ストーリーを作ったりすることはありましたか。
友井:そういうのはありました。キャラクターだけノートに描いたり、ストーリーを作ったり、寝る前とかに妄想したり空想したり。いまだに仕事で同じことをやってます(笑)。
――中学生になってからはいかがでしたか。
友井:中学に上がると、同級生が『スレイヤーズ』などのライトノベルを読み始めたので、それらを借りて読んだりして。子ども向けのホームズを図書館で借りて読んだ記憶もあります。それらを読んだ後で大人向けというか、原文が削られていない版も読みました。
――両方読んだのは、それだけホームズが面白かったからということでしょうか。
友井:たぶん。内容は全然憶えていないんですけれど面白く読んだ記憶はあります。それと、僕の中でずっと、小説は背伸びするもの、という感じがありました。ちょっと難しいものも読んでみようという気持ちがあったようです。



