第282回:友井羊さん

作家の読書道 第282回:友井羊さん

2011年に少年が原告となるリーガルミステリ『僕はお父さんを訴えます』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年同作を刊行しデビューした友井羊さん。 その後『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズをはじめ料理ミステリで人気を博し、かと思えば実際の冤罪事件を扱った骨太な作品『巌窟の王』を発表。硬軟自在の作風はどのようにして生まれたのか。その読書遍歴や小説家になった経緯をおうかがいしました。

その6「オリジナル小説を書くまでの修業期間」 (6/9)

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――自分で小説を書こうと思ったのは、何かきっかけがあったのですか。

友井:ネットの乙一先生のファンコミュニティみたいなところに入り浸っていて、そこで、乙一先生の同人小説を書いていたんです。

――乙一さん作品の登場人物を使って、また違う話を書いていたということですか。

友井:はい。ただ、自分が考えたオリジナルキャラを乙一先生の作品の世界に出すのが嫌だったので、乙一先生の違う作品を組み合わせる、ということを課していました。『GOTH』の2人が「夏と花火と私の死体」に出てきた村に行くとか、『暗いところで待ち合わせ』の主人公と「神の言葉」という短篇を組み合わせるとか。

――へええ。それでストーリーが成り立たせられたのですか。

友井:意外と成り立たせていました。叙述トリックとか、かなりトリッキーなこともやっていました。たとえば、『GOTH』の2人が「夏と花火と私の死体」の村に行って、お姉さんと話をするけれど、実は...とか。マニアックな話をすると、「夏と花火と私の死体」は、ジャンプ小説・ノンフィクション大賞に投稿された作品だったんですけれど、雑誌「ジャンプノベル」掲載版にはあったとある一文が、書籍化された時になくなっていたんです。僕はなくなった一文を知っていたので、それを利用した真相にして書いたりしていました。
まあ、そういう話をウェブにあげて内輪だけで楽しんでいたんです(笑)。同人小説はかなりの量を書いていました。実は最初はオリジナル小説がぜんぜん書けなかったので、二次創作することが練習になりました。

――それが20代半ばの頃ですか。

友井:そうですね。そこから、だんだんオリジナル小説を書けるようになってきたかな、という感じの頃に第一作目を書きました。それが『魔法使いの願いごと』なんですけれど、どの賞に送るにしてもカテゴリーエラーすぎて。当時はあの作品に適するレーベルがなかったんです。そこから何年かにわたって4、5作書いて応募しましたがどれも駄目で、そこからデビュー作を書き上げる、という感じです。
乙一さんがよくインタビューで、大塚英志さんの『キャラクター小説の作り方』といったマニュアルを読んだとか、ハリウッドの脚本の論理を勉強したなどとおっしゃっていたので、それを参考にしたりして。
自分はキャラクターを生み出す能力が低かったので、その練習として同人小説を書いていたところがありますね。人から借りたキャラクターで書いて、そこで練習して、それを習得したうえで、ようやく投稿に耐えうるものが書けるようになりました。同人小説を書いていたのが、いわゆる修業期間だったのかなと思います。

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