作家の読書道 第282回:友井羊さん
2011年に少年が原告となるリーガルミステリ『僕はお父さんを訴えます』で第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年同作を刊行しデビューした友井羊さん。 その後『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』シリーズをはじめ料理ミステリで人気を博し、かと思えば実際の冤罪事件を扱った骨太な作品『巌窟の王』を発表。硬軟自在の作風はどのようにして生まれたのか。その読書遍歴や小説家になった経緯をおうかがいしました。
その9「最近の読書生活」 (9/9)

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- 『Q.E.D.―証明終了―(1) (月刊少年マガジンコミックス)』
- 加藤元浩
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――最近の読書生活はどんな感じですか。
友井:小説、漫画の両方を読んでいます。漫画だと、加藤元浩さんの『Q.E.D.証明終了』は本当に好きな推理漫画ですね。長期連載作品なのに、毎回目新しいトリックを出してくることに驚かされます。
小説は、やはり同時代の方々の作品がすごく刺激になります。たとえば岡崎琢磨さんの『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズは毎回クオリティが高いうえに、新しい挑戦をしていてすごいなと思いますね。青崎有吾さんもミステリだけでなく小説としての深みが増していて、『11文字の檻 青崎有吾短編集成』は傑作だと思っています。
あと、読んだのは発売直後のことですが、横山秀夫さんの『64』には、とにかくものすごく衝撃を受けたんです。これだけ有能な人たち全員が本気で捜査に取り込んでいる様子を一気に描くことができる、ということに圧倒されました。
それと、『巌窟の王』を書くことになった時、じつは「本当にこれを自分が書けるのか」という戸惑いがありました。それで近現代を舞台にした作品をいくつか読んだんです。その時に自分の中で理想的な作品だと思ったのは、朝井まかてさんの『類』。森鴎外の息子の森類を、すごく真摯なまなざしで描いていて、影響を受けました。朝井まかてさんの本は牧野富太郎を描いた『ボタニカ』や、山下りんを描いた『白光』も、歴史の中で、そこまで有名ではない人たちを誠実に丁寧に描いていて、どれも素晴らしい作品だと思いました。
近現代を描いた小説では、辻堂ゆめさんの『十の輪をくぐる』や、最近だと青柳碧人さんの『乱歩と千畝』もすごくよかったです。
あとは中田永一さんの『彼女が生きてる世界戦!』は久しぶりに寝る間を惜しんで読みふけりました。他にも増田こうすけさんの『ギャグ小説日和 転校生』が途轍もなく秀逸でした。『ギャグマンガ日和』という漫画の作者が手がけた青春小説なのですが、めちゃくちゃ出来がよくて才能に圧倒されました。
読み返す本では、向田邦子さんの『思い出トランプ』がすごく好きです。執筆時に自分の文章がいまいちと感じた時は、頭を整理するために『思い出トランプ』を読んだりしています。
それと、小説ではないんですが、NHKでも放送されていた海外ドラマの「アストリッドとラファエル」が面白かったです。ものすごく出来のよい本格ミステリだと思っています。
――1日のスケジュールは決まっていますか。
友井:決まっていないんです。執筆時期とアイデア期では全然行動が違います。執筆時は朝起きてからずっとパソコンの前にいますけれど、アイデアを考える時期は、家でできないので自転車でふらふらしながらカフェを転々とする生活をしています。スマホは持っていくといじってしまうので家において、ノートとペンだけ持って。カフェにいてもだいたい1時間半くらいで集中力がきれちゃうので、そのたびに2軒目、3軒目に行って。あとは図書館の勉強スペースを利用することもあります。
――さて、今後のご予定は。
友井:次は『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』など料理ミステリの読者の方々に向けた作品を書こうと思っています。今度は果物が題材で、一般文芸だけれどちょっと児童文学テイストも入っています。一話目をアンソロジーに収録し、その後続きを書き下ろしにして本にまとめる予定です。
(了)











